50代後半で、葉巻をくゆらせバーボンをたしなみ、フィッツジェラルドが好きで、
似たような波乱万丈の自らの人生を豪快に笑い飛ばして我が道を行く知人がいる。
オールド・スポートとでも呼べばいいのか。
彼はいつも、気張らず品があり上質なホワイトシャツを着ていた。
老紳士である。
アメリカに住んでいた事もあり、アメリカンなオーセンティックスタイルが好きだ、ということを伺ったので、自然に
「するとシャツはブルックスブラザーズとかラルフローレンでしょうか」と聞いてしまった。
しかし彼から返ってきた回答は意外だった。
「いいや、帰ってきてからシャツはフェアファクスしか着ていない」
以前も紹介したブランド、フェアファクス。
イタリアや英国の生地を使って日本産のアメトラシャツを世に送り出している。
セレクトショップで中国製のものを見かけるが、それでも作りは良い。
「アメリカという国の服は、私には似合わない。
私が知っているアメリカというのは、常に日本との関係の中でのアメリカだった。
ラルフローレンも、ブルックスブラザーズも、アメリカの人間がアメリカらしさを謳歌する為の服だ。
そんなものを着ているのは恥ずかしい、私はそう思うのだ。」
元々アメリカの服がそんなに好きではなく着る機会が少なかった私は、
そもそもアメリカにも住んだことが無いし、アメリカらしさを謳歌するということの意味がわからなかった。
でも、「恥ずかしい」という感覚はわかる気がした。
オールド・スポートは続けた。
「アメリカの服にある静けさは、大胆さと余裕だ。しかしこれは時折、日本人にはトゥーマッチだ。
日本の服に求められる静けさは、必要によって作られた余白だ。
フェアファクスというブランドはそこを理解し、抑揚を表現できていると私は感じている。
そういう意味で、アメリカを好む日本人が日本で仕事をする時、フェアファクスを着るのが適切なのだ。
よく日本人はアメリカの大きさに縮こまるが、それは解釈を違えている。
大きいことが正しい、というのは稚拙な考えだ。日本には日本の賢い方法がある。」
白洲次郎のようなスタンスの人間なので、克己的で、
全てを乗り越えようとする挑戦的なスタイルの人間である。
たまに、昔の家族の話をするとオールド・スポートは悲しそうな顔をする時がある。
でも、だからこそ彼は前へ前へと進み続けるのだ。
流れに立ち向かうボートのように、絶え間なく過去へと押し戻されながらも。
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