服は生活を支える故に、生活に根差した服というものは文化と何らかの接点を持っている。
このチェコのアウトドアブランド、ティラックのロケジャケットは、綿100%。ベンタイルコットンと言われるもので、元は軍のパイロット用に開発された防水ジャケットの素材である。
このジャケットを何故買ったかと言えば、エロルソンのデザインは関係ない。天然繊維というのもあったが、シナモンと言われるこのレンガ色。
その昔、中国の人がなぜ原色を好むか、という問いに「北京の空は真っ青だから、そのトーンに合わせると原色に近い色が良いんだ」と答えた人がいた。中国人は赤が好き、という俗説は主に北京の人達を指したものだとか。その昔は、北京の空の下で原色の服を着ると馴染んで映ったらしい。
欧州はレンガ色、いわゆるブリックカラ―が馴染む。特にドイツやイタリアでは未だに地方はレンガ造りが残っている。ブリックソールなんてものがある位だ。そんな赤茶けた土に囲まれた所では、この色はごく自然の色となる。まさしく土着。コーディネートのうち、風景に合わせるというのは重要な要素の一つ。
イギリスに行ったとき。ビッグベンは毎日、正午にその大きな鐘を揺らし街に歌いかける。イスラム圏の国では一日三回、スピーカーから祈りの歌が流れ出し、街中に反響する。そういった生活と溶け込む音は、そこで暮らす人々の文化を瞬時に想起させる。営みの音。
このチェコで作られたジャケットも、プラハのレンガ造りを参照しているのだろうか。文化的な服は、どこかの生活のワンカットを隠し持ち、共に連れてくる。Massimo Piomboをはじめ、そういったデザイナーの服の楽しみを素直に受け取れるようになったのは年を取ったからかもしれない。
赤いレンガ造りの家は減っているらしい。北京の空はもう目の覚める青ではない。文化は変わっていく。生活も変わっていく。塗り替えられていく。ユトリロの描いたパリの街はもう様変わりしている。イギリスは、昨年末ビッグベンの鐘を特別に鳴らしブレグジットした。
今年、ビッグベンの歌が再開し、外で何気なくそれを聴くことができるようになるのだろうか。
あけましておめでとうございます。
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