その昔、いつかはFOXの傘を買おうと思っていた。
「Tube」は特にそうだが、「Stick」も「Solid」もどれもFOXの傘はとにかく細い。それがかっこいいと思っていた時代があった。当時、前原光栄商店とBRIGGS、Maglia Francescoと調べ、「やっぱ本場でしょ」とこじつけてその細い傘に思考を乗っ取られていた。ただ、本当にそれサヴィル・ローのスーツに合うの?とは思っていたが。
次第にあの細さと寒竹のバランスに不安を抱き、エキセントリックすぎやしないか、と思うようになり、イタリアのMaglia Francescoの折り畳み傘を買った。 開くときの音と感触はすこぶる気持ちよかった(BRIGGSのように布が開くときに重厚感があり、最後まで持っていくとちゃんと「キン」と鳴る)ものの、 結局その大きさと重さ故、既にレギュラーで使っていたアメリカのTotesと比べてしまい、数か月で使用を頓挫(KnirpsのT-2も使ってたけどTotesはコスパが最高で紛失のダメージも少なく剛健だった)。
結局、日本製の前原光栄商店が一番いいのではと思ってはいたものの、やはり長傘は手が塞がるので、年取ってからの方がいいかなと数年間欲しい気持ちを寝かせて生きていた。っていうか本音言うと「俺のダンディズム」でFOX・Maglia Francesco・前原光栄商店が出てその中で前原が選ばれたのでその状況で買うのは恥ずかしいという無駄な自意識。
という話を妻にしたら昨年、贈り物でもらったのだった。当初、寒竹がいいなぁと思っていたのだが、妻は贈り物レベルが高い(ネクタイをプレゼントするにしてもマリネッラのネイビーソリッドなどを選ぶ)ので、籐持ち手のものを選んでくれた。本当にこっちで良かった。
定番のTRADの黒、16本傘だ。
タッセルが付いていたが取った。
十分細く、また英国傘のように重くない。
長傘、自分には合わないかもと思っていたのだけれど、良かった点は3つ。
大きい荷物になるので折り畳み傘のように紛失しないこと。電車の中などでバランスがとりやすく手の置き場になる(ステッキと同様の機能を持つ)こと。折り畳み傘より高い風雨の防御力を持つこと。
特に2つ目は想定外だった。移動時のQOLが下がると思っていたのだけど、壁や手すりに寄りかかったりせずともバランスがとれるようになった。足裏3点アーチみたいなものか。
16本。骨が多いと和傘のような印象だが、信頼感ある耐久性を持つ。それと骨の間を支える生地が少なく力を分散するからか、雨の持ち手への振動の伝わり方が静かだ。
重い傘のようにグググ…とした重厚感は無く、最後の「キン」も無い。でもあっさりとしていて剛健でそれが良い。Maglia Francescoを使っていた時に思ったのだが、あの機構はデリケートな気がして傘を開ける時にいちいち気を遣う事になるのがデメリットだった。まあ音や感触で道具の具合を察するのは楽しみでもあるのだけれど、長傘が使用したい時に壊れたら困る。
個人的に一番美しいな、と思ったのはこの機構。16本の骨の先端が、持ち手の金属製の環(上下に動く)を上からかぶせることにより綺麗に収まる。
地味ながら好もしい。長傘を巻いた時、それぞれの骨がシャフトから少し浮いて寄り添っている状況(その部分の強度が弱そうに見えるし、浮いた骨が何かに引っかかりそうに感じる)が自分には不安だったので、それもない。あんまり気にしない箇所かもしれないけど、仕事が丁寧というのはこういう事を指すのだろう。
それと、丁寧な仕事と言えば手元。
寒竹じゃなくて本当に良かった。なんで昔は欲しかったんだろう寒竹。あんな目立つの合わせる服とか状況とか人間とか選びすぎでしょう。妻ナイス。
触り心地はマットで滑らか、曲線も美しい。ノックするとコンコンと軽いけどもしっかり”詰まってる”感触。恐らく時間がかかることが見た目にも感触にもわかる手元。
日常的に使う状況においてすべての水準が高く、且つやり過ぎず、合う人を選ばない傘。
「良い傘は本来こうあるべきではないか」という視点に基づいて作ったのが感じられる、満足度の高いアイテムだった。
たぶん、今後傘を買う事はもうないだろう。
bengal
よっくん様
コメントありがとうございます。
承知しました。メールにてお返事いたします。
よっくん
いつもブログ拝見しています。本件記事とは関係ないのですが、以前、幡ヶ谷洋服店を紹介されていたかと思います。こちら、もし可能であればご紹介いただけないでしょうか?
スーツのオーダーをしてみたいと思っております。ご多忙のところ恐縮ですがよろしくお願い致します。