どこかの国の衣服なのだけど、今の香りがする。

7釦、ヘリンボーン、やや厚手、グレイッシュ。

デザイナーはサンフランシスコの33歳。ヤンヤンヴァンエシュや、toogood出身のCAMIEL FORTGENSのようなアルチザン系ブランド、Frank lederS.E.H kellyのような質感の生地を好みながらも、服はそぎ落としたようなデザインだ。アースカラー多めの庶民服系というか。両親の関係で親仏家でもあり、フレンチワークの要素が入っている。ヘリンボーンとかツイードとかアイリッシュ系の素材とか、そういう類のものが多い。ただマーガレットハウエルともムジラボとも違うのだけど。

29mm幅のバンドカラーでボタンは14mmとやや大きい。シャツジャケットに近い。
剣ボロの形が地味に変わっている。カフは55mmでやや小さめ。絶妙だ。

パタンナーで日本のファブリックも理解しており、「自分の身の回りで生まれたものだけで服を作りたい」とポートランドな感じの人。色々なブランドを見ている方であれば、ここまでの説明でイメージが湧くのではないだろうか。こういうブランドは一定数あるからだ。ただ、本人がスケーターっていうのはちょっと珍しい。元はスケシューを作りたかったらしく、個人的にはいつか作ってくれるのを期待している。

ボタンはマットな黒。
ボタン間隔が75mmと狭く、生地もしっかりしているので暖かい。


生地はコットンのヘリンボーン。これが最もポイントだろう。生地や副資材の選定に時間をかけている印象がある。三者混紡の生地で、肌触りが良いのだけれど洗濯にもよく耐え、少しヤレ感が出てきた今、この雰囲気が気に入っている。というかヘリンボーンが好きだ。

袖裏。割と縫製幅は狭く、すっきりしている方ではないだろうか。
もはや当たり前だけどロックミシン処理ではない。

「温かみがある」「土臭い」と言えばそれまでだが、evan kinoriが他のそういったブランドと違う所は、ファブリックの特殊性の他、どこか都市の生活に沿ったスタイルが表されている所だと思う。フランクリーダーを着て木こりになっている人のケースは何度か見たことがあるが、evan kinoriは木こりにはなり得ない。シルエットは元より、色使いも奇抜なものが無い。大抵のものは着ていて緊張することなく、楽でいられる。馴染む。エフォートレスに通ずる要素を持っている。だから1LDKでやたら推されていたんだと思うけど。良い関係を築きやすい服とでも言えばいいのか。

生地にある程度ウェイトがあるからか、フロントを空けても流れ方が上品。

ダーツもプリーツもなく、ストンと縦に落ちる。が、生地が良く、くすんだ色合いながらも上品に見える。

めちゃめちゃ文字にし辛いなと思った。このシャツ、触ったり着たりすれば「ああ、確かに良いわ」と一発で伝わるんだけど、衝動的に買いたくなるような服でもない。難しい。ちなみに、デザイナーはサンフランシスコに哲学を学びに行って、何かがあって途中でパタンナーの学校に転換したらしい。哲学徒もパタンナーも茨の道。応援している。