10年くらい前、尾作さんのアトリエに訪れた際、初めてマス見本を見せてもらった。確か葛利さんのものだったと思う。マス見本は横糸や時には織り方を変え一枚の生地で複数の色や生地をサンプルとして表現するものである。もちろんサンプルなので、衣類になることはないが、整然とトーンが近い生地がマス目に並んでおり美しい。

和の雰囲気があるんだけど、和に寄りすぎない

その後、ある生地屋で麻生地のマス見本を入手することができた。さてこれでいつかシャツとパンツのセットアップを…と考えてはや4年放置し、ようやく南さんに依頼して出来上がって着ているのがこれである。

ザリッとしている部分
サラッとしている部分(紺)

当初は「マスのどの部分をどの箇所にあてるか」で永遠に悩んでいた。正直、3か月間くらい試行錯誤して自分が嫌になった。結局最終的には生地を見せて「センスに任せます」と言うほか無かったのである。二言目には絶対「シンメトリーにしますか?」と聞かれると確信していたので、そこも含めて任せる、ということを決めていた。でもってアシンメトリーにすることは無いだろうな…という予感もあった。

0.5gの陶器

そこでもう少しアルチザン味を出したいなと思い、導入したのはボタン。八王子で作っている陶ボタン専門店で購入した。海外のアルチザンブランドが使っていたりするので、一部では有名なのだろうか。まあまあなお値段ではあるものの、雰囲気や色が気に入った。eelのシャツで陶ボタンの良さを知ったため、それを流用するとか、普通に水牛もよいなと思っていたが、すぐに割れてしまいそうなこのボタンを使うことにした(意外と普通に洗濯しても今のところ割れていない)。

手仕事感が加速される一方、縫製が奇麗なのでいいバランスに思う

当然リネンセットアップのつもりだったのでパンツも作ったわけだが、これを作ってる最中に例の能州のアルチザンがマス生地のパンツをリリースするというシンクロニシティが。そんなことあるんだ。しかも未だに行きたいのに行けてないmagdalene。いや、だからなによって話なんだけど。

またしてもスーツ屋に前回と同じかんじで!と投げる
その配置なんだ~へ~と思う(何も思ってない)

紐はボタンに合わせて白にしようかと思っていたが、同時に長く指定したので、単品で使いづらくなりそうな気がして臆病を発動、同系色に。まあなんかセルチップついてるしいいか。

最近気づいてしまった、女性の髪とパンツの紐はどちらも長い方が興奮するということに、でも自分うなじフェチなんだよな、人生って難しい

やっぱり見て思うけども、マス生地って使い方にかなりのセンスを問われるのでしょうね。パンツもやっぱり、「えっと…柄当てはどう使います?」と怯えた目で訪ねてきたので、やさしさを込めて「おまかせで」と答え、アクの強いところじゃないし多分左右均等にしてくるんだろうな~~と思ってたら案の定パンツも線対称。挑戦したくないよね。わかる。

身幅や着丈の指定は今風にして、両ポケに。肩傾斜がモダンなので野暮ったさがないな…まあそんな個人的な細かい実験はいいんだよ
ちょっと和風なんだけどギリギリでそっちになりすぎない
最近ロッカーループ好き

セットアップで着るとさすがにちょっとした手仕事展感が出てしまうのだが、キャップとスニーカーでバランスをとっている。ラミーのおかげで涼しさもあり割と気に入った。しかしさいきん変なものを変な風にして頑張って着ている自分、いったい何?と思わなくもない。ドライ生地でいいし、わざわざマス見本を服にしなくていい、陶ボタンを調達する必要も皆無。この年でもまだやんの?と自分にため息をつきつつ面倒くさい半生を続けている。

陰では和が色濃く出る