クラシックドレスの界隈には一部で有名な好事家がいて、よくビスポーク職人のトランクショーで見かける。その人はExcelでいつ何を着たかを管理している、と雑誌のインタビューで発言しており、そのマメさに当時は感心した。

ある月、私はまったく同じコーディネートミスを二度した。ネイビートラウザーというものは難しい。ちょうどその頃、自分が買った服をどれくらい着ているのかを定量的に掴みたい、という気持ちもあり、試しにスプレッドシートに記録されるよう組み込んだ。そんな気になったのも、畑村洋太郎氏の「数に強くなる」が好きで、数えるという行為が、茫洋とした世界を具体に落とす祈りのような行いと思っているからでもある。

結局、某好事家と同じような事をしてしまっており、自分の気持ち悪さに辟易した。しかし、それを以て友人にどれくらいアノラックを着たかなどを伝えることなどができたことなど、利点もある。他人がいったい何をどれくらい着ているのか、というのは確かに気になるものだ。

「これがあなたのReplayです。」今年もAPPLE MUSICはご丁寧にその年に聴いた音楽の数を押さえ提示してくる。使ったかどうかわからない購買報告よりもこっちの方が現実に即している、というわけで、集計期間は1月~12月初旬まで。「これが私の羽織りログです。」

南さんのビスポークコート 21回

ヘリンボーンツイード

ドレスアウター部門1位。外套。ロマンのある言葉だ。ゴーゴリの同名著も淡泊だが味わい深い。

これをビスポークする時思ったけど、いい生地は中々見つからない。特に年々、技術進歩によって着衣の生地重で暖かさを確保する必要がなくなったのか、重い生地や紡毛が減ってると聞く。目付の重い生地は確かに種類が少なくなっている。結局これは500g位のFOXツイードなのだが、作った当時と比べ値段が倍くらいになっており、(FOXのブランディングもあるが)もう作ることはないだろうなという気持ち。もちろん首からしっかり乗っているので快適。昨年はもっと着ていたが、ダブルフロントが気分でないのと、今年は暖冬もあり回数が減った。Arysと1回差だが、12月後半で差は開くであろう。

Ten C Anorak 32回

カジュアルアウター部門1位。そりゃそうなるでしょ。

Fendartのノータック 20回

この綾織の生地、本当に素晴らしい

 パンツ部門。私はトラウザーならワンタックが好きだ。しかし、フェンダールについて完成度の高さで言えば最初の一作、ノータックが傑作だと思う。

前立て部分、特にフロント部分に不満はある(スコヴィルを調達したら魔改造する。ごめんTSさん)のだが、それを補うアウトラインの綺麗さ、生地のドレープが映えるパターン、怪しく美しいけど合わせやすい生地。ベルトレスで、何にでも合うので、手に取りやすい。この回数も納得。サンリミットのゴムパンツを3種持っているのだが、その合計と同じ回数とは中々。

J.M.Westonのスエードローファー 26回

ドレス靴部門。ビスポークのレイジーマンと1票差。泣く子も黙る180、のウエストン純正スポンジソール。

ローファーはレザーソールだろ、という人がいるが、よくわからん。元々楽に履く靴として生まれたんだし別にスポンジソールでも良くない?という事でスニーカーのノリで履いてる。このウエストンのブラウンスエードは、2019年頃に滅びたセレショ、ハバダッシュリーで店員さんが履いてたのが良かったので真似したもの。ブラウンスエードをウエストンのクラシックシリーズの木型にのせると、エイジングする時に古い家具みたいになってかわいい。

そんな渋かわいい見た目なのに履きやすいローファー、履きやすいソール。そりゃ履く頻度は増える。

Reproduction of foundのジャーマントレーナー 38回

汚いくらいが白スニの真価

 カジュアル靴部門。意外にクローゼットに長く残る買い物ランキング1位、「旅先で必要に迫られて時間がない中で即決する定番のもの」。

「スニーカーなに履けばいいかな」「ジャーマン履いてそう」「ああー、そうね」という会話がずっと腹の底に沈んでいた状態で、セレショで犬が棒に当たる感じで出てきた。それなりにくたびれてきて良い見た目に。

ジャーマントレーナーはあまりにもいろいろなスタイルに合いすぎる。ただの白スニーカーよりも断然合う。ただ、なんというかお茶を濁している感じにも思える。「ジャーマントレーナーを履いてる人」のスタイルに集約されるというか。小奇麗な大人の枠に収まめられるというか。ああ。疲れたので残りは明日。