私の望みは、もっと深い
欲しいのは――――目だよ、兄弟
君の目で世界が見たい
ジョーダン・ピール”ゲット・アウト”
ゴッホが晩年、アルルの精神病院で描いた絵に、糸杉と緑の麦畑の絵がある。緑と黒のコンビネーション。濃く塗り込んでいくと黒に行き着くような、深い緑を使っている。
糸杉の絵を書いていたころのゴッホは、視界でうごめく色の振動を絵に留めようとした。風に揺らされる麦の穂が持つ、様々な濃淡のレイヤーが重なるその瞬間にあらわれる強く深い色。その揺らぎを視覚でとらえ、瞬間を絵に収める。彼はどんな目を持っていたのだろう。
これは絹と麻と綿の三者混。イタリアのトスカーナ地方で作られる。トスカーナ地方にはチャイナタウンがあり、彼らが服飾産業を支えているらしい。ひょっとするとこの生地も彼らの協力の賜物なのかもしれない。
生地を見た時に、ザラついた緑と乾いた黒という組み合わせから、冒頭の絵が思い起こされた。リネンの粗野な生地感もあり、虫がせわしく鳴く中、麦わら帽子をかぶった画家がこの生地のシャツを羽織りキャンバスに向かっている絵が一瞬浮かんだ。
そういうわけで、おぼろげな光景の中のシャツを南さんに伝え、現実化してもらった。本当はもう少し重さのある生地であれば良かったのだが、イメージ通りの生地は簡単に見つかるものではない。
緑の発色、生地の番手的にレディースっぽい印象も感じていたが、幸いシャツに仕上がって着てみたらあまり気にする事なく着られた。
無造作に袖をくるくると3,4回まくっていくイメージ。長袖シャツの袖をまくると何故良いか。たとえあなたが全く仕事が出来なくても、無職でも、デキる男っぽく見えるからだ。家事を一切手伝わない亭主だとしても袖をまくっておけば「何かやってる感」が出るわけだ。酷い話だがマジだ。
袖をまくらないのであればカフ周りはゆとりを持たせたい。それにより手の甲を隠し、指先だけが除く状態を実現できれば「萌え袖」として威力を発揮する。ロールキャベツ系男子を演出し、なんかそういう需要に応える事ができるんじゃーないか。にゃーのTシャツでも着とけ。知るか。
うらぶれた感じの緑や日にやわらぐような緑など、緑色の服はいくつか持っているが、何一つ同じ色がない。光の当たり方でかなり変わる。市場では緑色という扱いが少ないくせに、”緑色”が担う色の幅はとても広いように思える。緑色というのは人により感じ方がけっこうな範囲で異なる。ターコイズブルーは緑だと思っているが、青だという人も多い。
見る人の目により様々に書き換えられやすい色、それが緑なのだとすれば、一番物語が込められやすい色なのかもしれない。
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