“さっきからあなたの目の前でおとなしく座っているだけのぼくだけど
ゆらゆら帝国 “グレープフルーツちょうだい”
頭の中では今たいへんなことがおこっています。”
原田服飾研究所。
品質タグに「研究所」の名前を見た時、「そりゃあそうだ」と納得した覚えがある。たぶん、そんな流れをみな経験するのではないか。
一見普通。でもよく見ると変な形。なのに履くと妙に落ち着く線を描くパンツ。シンプルな見た目で硬質な線を描いているのに有機的な履き心地の検証がされているパンツ。コンクリートや建材の印象に近い壁みたいな生地を使った各種パンツ。パンツパンツ、パンツばかり。たまに寸胴な半袖シャツ、たまに犬の首輪モチーフのベルト。でもやっぱだいたいパンツ。
これは、変という一言では済まされない。手入れされた清潔感ある見た目で、清楚ななりをしているけど、たまに身も凍るブラックジョークを真顔で言ってくる、けど会話は通じるし仕事は丁寧な同僚、という雰囲気。
デザイナーは男女のペアで、2004年スタート。もう今年で20年になる。20年間、服屋と服好きを夢中にさせてきているわけで、その実力は計り知れない。
TYPE1。たぶん代表作。TUKIは岡山の企業でジーンズにも力を入れていたため、実質これがメイン。でもTYPE3とかミリタリーバグスとかの方が有名になっている気がする。見ての通り普通だ。トップボタンがそっけなく、このブランドの性格を表している。
NORITAKE/HARADAという、501にフォーカスしたものもあり、こっちはアプローチが服オタみたいで好感が持てた。普通の501を極端にデカくしたり、丈を短くしてデカくしたり、といったオーダーが出来る。私は濃紺デニム無理おじさんになったので手放してしまったが。
これはコンバットパンツ。ワイド、テーパード、クロップド。ポケットが多い。そしてゴリゴリの葛城ドリル。ドライで冷たい素材。変な膝のポケットは膝当ての意味もあるのでは、と思うと研究者の仕事を感じる。また、強さをひしひしと感じるのは生地感だけでない。ゴリゴリの生地にしれっと綺麗に走る3本ステッチ。切れ味を感じる。それ以外も謎の入れ子構造ベルトループとかあるのだが、TUKIのあらゆるパンツに言える事は、「なんか…大変なことになってない…?」というディティールが要所にあるのに、「大衆的な理解の範疇にあるパンツ」からは出ることが少ない。このブランドの特徴なのだと思う。このバランス感覚が私は好きだ。
パジャマパンツ。パジャマなのって生地感だけでは。これボタンフライなんだけど、フライ部分は1ボタン、しかも別に前立てが貫通しているわけでもない。さらにTUKIでよくあるバック・トゥ・フロントパターンという、前後逆の仕立て。これも上述の通り、普通の黒いパンツに見えるのに、よく見ると見たことがないディティールとパターンで構成されている。
なお、おそらくTUKIで最も薄い生地。はっぴ用の木綿を使っているらしい。「はっぴ」と聞くと夏祭りを連想するがこれを履く人は祭りとかに出てこなそう。
フィールドカーゴ。これは割と王道な感じがする。サイズ展開は0、1、2、3とあるのだが、これは2、4、6という展開。え、なんで?と思うのだが「変則的なサイズピッチですね。」と店員にさも常識のように説明されたので何も聞けなかった。そうだよね、変則的な展開なんだね。うん。
生地がTUKIらしい。バックサテン双糸で、ぎっちりした生地に静かな光沢を湛え、ゴバっと太いシルエットなので、もはやポケットが付いた柱。止血テープはごんぶとの平紐。ぶらぶらと長い紐が垂れ下がっている服というのは好きだが、言い訳できない。これならできる。「大震災とかで手足に怪我を負った際、これで縛れば止血できます。」なんと便利なことか。カーゴが欲しくてウロウロしていた時、まあ色々と見たのだが、TUKIのこの妙な意気込みを感じる止血テープでこれに決めた。今の所、一番気に入っているTUKIのパンツである。
TUKIはマリンパンツ仕様のTYPE3が最も定番化していたと思っているが、まだ売れているのだろうか。思い出深い話があるのだが、以前TYPE3を履いていたちょっと変わった女性が、これって面白いつくりなんだよー、とおもむろにボタンを外し前を開いて機構を見せてくれた。ふーん、面白いデザインだねーと、視界に入る”パンツ”に気を取られないよう私はおとなしく平静を保っていた。頭の中はたいへんなことがおこっていた。お前の大事な冷蔵庫の中身を全部食っちまいそうだった。
TYPE3の構造を知らない方は試着してみてください。きっと、あのおとなしく座っているような見た目のパンツ、それを履いた時、あなたの頭の中もたいへんなことになるでしょう。
bengal
キシベさま
全然よくわかっていないんですけど、珍しいものをベースにしているってことなんですね。
キシベ
フィールドカーゴはM-51の中でも個体数が極めて少ないウエストアジャスターがボタンタイプのものを元ネタにしているのもポイントですね。