自転車にうまく乗れない
THEE MICHELLE GUN ELEPHANT
国内の高級紳士服工場は数が限られている。リベラーノなどのマシンメイドラインを作っていた那須夢工房。伊勢丹やアローズなど有名店のOEMをかかえる東和プラム。ビームスなどOEMを請けつつ自社ブランド評価も高いリングヂャケット。そして数々のテーラーのOEMを請け負うファイブワンとアルデックス。
アルデックスの特徴は何か、というとバランスが良いことだ。最近のイタリア寄りのつくりと親和性が高く、品質も申し分ないこと、それから早割期間中のコストパフォーマンス。ちょうど今、2024年3月上旬まで早割期間中で、閑散期を利用して通常より長めの納期で受ける代わりに安くなっている。那須夢工房も確か3月1日から工場直販受注会だし、この時期がスーツの閑散期ということだろう。
東京店は六本木のはずれのビルの6F。最初は「ここでいいの…?」と思ったが、「インターネットでの情報収集をしている人が突然やってくる」ケースが多く、直オーダーはそれでやっていってるらしい。ネットからのマニアックな導線が太い、というと昔某掲示板経由での来店が多いテーラーワタ〇べを思い出した。時期によって某掲示板も流行りがあり、少し前はファイブワンが推されていた記憶がある。
ファイブワンも良い、というかスタイルがハマるならアルデックスより好む人も多いと思う。私が多少狂っているために店の雰囲気が苦手なだけである。なんというかこれは難しいんだが、例えばaldexで検索かけるとco.jpと.comの両ドメインが出てきたり、メタタグがおかしくてアルデックスのロゴやらメニュー名やらが出てたり、そういう感じが好ましいのだ。飾れてない、というか、まちの旨いラーメン屋感というか。ガットで修業した古幡さんのインスタの感じが好きなんだけど、似たようなものだと思う。見え方なんざ気にしてらんねえんだ、良いもん作ってんだからいいだろ、という感じの。このなりふり構わない感じが行き過ぎるとBEP無視のプライシングになってたりとかで良くない、ということもあるので、どこまで行ってもバランス。
アルデックスは堅実で質が良い。それはもっともだが、個人的には職人に若手が多く、意欲的な雰囲気があるのが良いと思っている。フィレンツェスタイル、ナポリスタイルもそうだが、展示会でもワイドパンツを提案したり、新しい事に取り組む職人を抱えている、というのは好ましい。変な事を頼んでも「まあやってみますよ」となるし、勝手に変な事にチャレンジしているのは見ていて面白いからだ。
なんでこれが成立するのかというと、どうも技術者を養成する「匠塾」という企業内スクールに集まってきているとか。この匠塾、きっかけは若手の入社や技術承継の課題感だが、どうやら東和プラムにも関連している様子。70年代、カラチェニの弟子でイザイアとかを指導していたモデリストの人が東和プラムに技術指導にやってきたわけだが、当時の工場長とアルデックスが契約してはじまったのが「匠塾」らしい。ああそうか、アルデックスって豊橋だけど、東和プラムの前身の天神山は名古屋に本社があったらしいし、縁があるんだろうか。以前はアローズソブリンの既製が東和でオーダーがアルデックス、みたいな時期もあったと聞いたことがあるが、愛知県、強い。
アルデックスの実力からして、世界的に戦えるレベルなのではないか、と思うのだが、やはりここもファイブワンほかと同様、アジアや海外でそれほど知名度が無い。「ファクトリーブランド」であるイタリアの連中、つまりはボリオリ、カルーソ、ベルベストにイザイアにタリアトーレなど、彼らは世界中で売っていて、売れている。一方で日本から海外に出て行っているのはリングヂャケットくらい。アーモリーを含めアジアで売れに売れており、揃って「品質が良い」との評判である。
リングヂャケットと比べて冒頭の高級紳士服工場の製品に「品質」の差があるのかというと、あるにはあるが、大きい差ではない。結局は別の、例えば見せ方や売り方に差がある。ただ、そこに注力し拡大する、という事はそれはそれで品質に影響が及ぶリスクもある。結局はバランスの問題。
私がバランスバランス言っててもまるで説得力が無いのだが、まあとにかく紳士服需要が落ちてきても持続可能性を持って生きられる位には頼む、というただの望みである。若手のチャレンジに寛容な新規性と、堅実に今の品質を保ちOEMを受け続けていく安定性と。
でも、バランスなんていらない、と言い出す時もあるのかもしれない。
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