クローゼットには必ず「ハンガー」が必要である。当然服好きの方は「mawa」だの「ながしお」だの、今回の作り手たる「中田」だのとこだわりのハンガーをお持ちの事とご推察する。

基本的には「収納」以外に、「服の型崩れを防ぐ」「省スペースで収納する」「脱臭・湿度調節」といった機能が付加されているものが市場で選ばれる「高級ハンガー」となる。

しかし、「見栄え」となるとどうだろう。そもそも「ハンギングされた服の姿が美しい」などとのたまう変態は一握りのうちの数粒だ。その数粒の変態向けに売られたハンガー、そういうものが市場には存在する。

その名もアナトミーハンガー。

新種の生命体の化石っぽい。
フックとワイヤーの2展開だったらしいが、これはワイヤータイプ

高級ハンガーはあまり商品が多いわけではない。他は何があるのか。

プレジデントハンガー(ながしお)17000円~19000円。厚み6cm。ヨーロッパブナ材。スラックスは滑り止めでひっかかるタイプ。

中田ハンガー AUT-02 13000円。滑り止めなし、厚み5cm、ブナ材。

中田ハンガー NH-2 33000円。継ぎ目なし、厚み6cm、ブナ材。

roomsafari トライアングルハンガー 2700円。空洞アルミ。

ZACK コートハンガー 4000円。ステンレス。アルチザンっぽさはあるし価格的にまあ高級と言える。

・マイネッティ…は樹脂製で2000円しないし、mawaは200円位。マイネッティとかになると「いいハンガー」のイメージはある。

ティエラのスラックハンガーみたいなトルソーがあるが、98000円。もはやハンガーではないが…。

ちなみに私はながしおのプラハンガーを使っている。厚みと肩幅があること、またスラックスを掛けるバーが力をかけて留められる仕組みが気に入っているためである。

この黒い斑点はデザインらしい。正直何をしたかったのかわからない。
かわいいとすら思える。

DEVOAは西田大介氏という元レスラーのデザイナーのドメスティックブランド。いわゆるアルチザン系の一つ。人体医学を学んでいたバックグラウンドもあるため、アナトミカルなアプローチの服が多い。個人的にはスリムパンツやクロップドパンツ、またノーカラージャケットのイメージが強い。シャツも面白いが、個人的にはジャケットやパンツの方が見ていて楽しかった。アルチザンブランドにしては露出も多く、ブランドも多数あり活動的なので西田さんという人は興味深い。

このハンガーの考えとしては”僧帽筋”。僧帽筋で支える、という方針なのだろうが、当然だけど掛けにくい。落ちる落ちる。だから掛けるのには気を遣うので、普通に帰ってきて服を掛ける、とかより服を肴に飲む時とかの需要で、服の落ち方を慈しみながら一献、という使い方が最適。「なんなのその需要?」と思ったあなた、正常です。そのままの貴方でいて。

縦に垂れるビスポークジャケット。
縮尺がおかしくなっているわけではない。垂れている。

撫で肩なので撫で肩のジャケットは好きだけど、さすがにこれは撫でるにも程がある傾斜。ただ、縦のラインは強調されてカッコいいと思いません?落ち感ですよ落ち感。服の。シワになる?知らねーよそんなの。これで俺はグレンフィディックを飲むんだよ。このエモンカケは…あいつの…俺の相棒の僧帽筋を型取った遺品なんだよ。弔い酒が染みるね…。

じゃなくて。なんだろ。全然良さが語れない。常人に向けての言語の中にこれを称賛できる言葉がないというか。ちなみにブナ材で継ぎ目なしです!NH-2が3万3千円に対してこれは1万3千円だから2万も安いよ!とか?違うな。わからない。

ここをミニマイナスドライバーで調整する事でワイヤー長が調節可能。
ワイヤーループの長さ調節もこのレバーで可能。ここは一般工具らしい。

こんな訳の分からないハンガーなのに、なぜか魅力満載なのは、まだハンガーの分野で異端が少ないからだろう。服好きの方々は求めているはずだ、更なるハンガー市場の活性化を。輪島塗で16万、とかそういうのでは決してないのだよ。

このアナトミーハンガーはほぼ手に入る所はなく、小売店に一部ストックしているのみ。しかもこういう商品なので、普通に売ってくれる店は少ない。私も老後の五条悟みたいな人の領域展開に生身で挑んで購入できた。ヤバイ接客ダイスキ!な呪物なのでできた業だ。ちなみに強化プラ素材のver.2が出ているので、より西田さんのプロダクト魂を感じたい方は購入してみると良いかも。こういうハンガーを欲しがる人はバキバキの異常者だと思いますので、くれぐれも買えるうちに買いましょう。思いが募ってトルソーや人体模型買っちゃったり、人骨を掘り起こして粘土で肉付けとかしてしまうより、低コスト低リスクで済むよ。