俺たちは死にたいんだ、レイ。

スティーブン・キング “死のロングウォーク”
カートコバーンはこんな色のネルシャツを着ていない

2011年、ラルフローレンの甥でありながら俳優でありアーティストのグレッグローレンは自身のブランドを立ち上げた。ビートニクの風貌で繰り出されるビートニク向けの服。グレッグローレンの服を見るたび本当に思うが、ロン毛で疲れ切った髭面にとても合う。ボリューミーなスニーカーに合わせる、いわゆるリックオウエンス枠でのスタイリングよりも、デザイナー本人に似た人が着てる方が如実に服の良さが出る。

ホーボー向けというか。歩いて旅してるんだ、これは愛読の詩集でね…”叫ぶ”っていう名著で…いやそんな人はもういないだろ。

5釦、15mm。ジャケットの袖釦サイズ。

彼の服は「ミリタリーアイテムの再構築」が多くを占める。ローズボウルとかで出くわすミリタリージャケットの美しさに見惚れていたらしい。ミリタリーアイテムに特段の想いはない。しかし、感ずることは出来る。当時を生きた人々を巻き込んだ大きな物語があり、その一端の空気を纏ったアイテムであるわけだ。それに触れると、旅先の異国の知らない匂いの空気で胸腔を満たすように、薄皮一枚隔てた先に未知の別世界を感じる。

サイドタック。実は剣ボロもそうだが、割と柄合わせが出来ている
…気のせいかもしれない

ミリタリーアイテム、特にテントやらを使って再構築して衣服にする方法は珍しくはない。それこそジュンヤなど名立たるデザイナーが手がけてきた手法だ。最近だと2013年に立ち上がっているREADYMADEはミリタリーアイテムの再構築で一定の地位を築いている。

切りっぱなしのほつれ出し
ダブルカフの長さ。腕は細いのでまくり上げる事は可能ではある。この腕が細いのがスタジオシャツらしさの一つとも思っている

汚らしく見えるアイテムは汚れが気にならない、むしろ愛着として成立する、と思う人も多いらしく、アルチザンブランドはその利点を活かしている場合もある。

着てるユーザー層はリックオウエンスとかvisvimやらの顧客だろうか。ダラッと縦に布を垂らすのが好きな人たち(要はヨウジヤマモト含む古参アルチザン好き層)にはヒットするんだろう。

タブを前立ての横向きボタンホールに通し、下の銀釦を留める
タブを無視しても留められる

1930年以前のプルオーバーに見られるような前立てからタブを出しボタン留する仕様、そこにインディアンシルバーさながらの銀釦のあしらい。スピってんぜ…!

こういう箇所のつくりは求めていない
中厚のコットン生地はよく揉まれたような柔らかい肌ざわり

トップボタンがない。そういえばANSNAMのバイアスウールシャツも、バンドカラーでトップボタンが無かった。キーネックっぽくなって体格が良ければイイ感じにオス感が出る。

エレナドーソンとかもそうだけど、切りっぱなしのグランジ加工や強いウォッシュ加工は生地にある程度のコシ(密度?)が無いと雰囲気が出ない。これもそうで、中厚の生地だからこそ”朽ち感”が良い味として出る。それは長い道のりを歩いてきて、今にも崩れ落ちそうな人間が振り絞る、ブルースのような美しい鈍い光である。枯山水。