ゴリオ爺さんが髪粉なしにはじめて姿を現わしたとき、女主人は、彼の髪の色を見て思わず驚きの叫びを発した。うすぎたない緑色がかった色だったのである。人知れぬ悩みのために、いつとはなしに日ましにもの悲しげになってゆく彼の顔つきは、食卓を囲む顔のなかでもいちばんうらぶれているように見えた。
バルザック
緑。それも、貧者のvertである。
「染めてる最中は楽しいし、実際達成感とかあるけど、、、結局着なくない?」
友人の一言だ。素人が小売品で行った製品染めなど、発色が良い訳がない。クオリティ(むらの無さとか)も高いわけがない。だから一般の製品と比べどうしても見劣りするから着なくなる、という意味である。確かに。
元々は南シャツで作ってもらったビスポークジャケットである。シャツ屋でビスポークジャケットだと…?と思う方もいらっしゃるかと思うが、普通に出来は悪くないので、ビスポークを試してみたい方はやってみて良いと思う。事実、これを作った時はそういうノリで作った。一般より少し安いし、それならちょっと攻めてみるか…というノリで。
これらの写真はやや暗いから雰囲気ありげな色に見えるのだが、実は陽光下ではとても緑である。それも、くすんだ感じではなく普通に眩い限りの活きのよい草原。ふくよかだ。少し照れてしまう。マスターズまではいかないが、着ていった日には一発ギャグで通用するくらいだ。
それを染めたのは下。
一応、有益な(こんな危険な事をする人間が現われるのかはさておき)情報を後のネット大河の糧とするため、実際どのようにして染めたのかを以下に記す。
まず、セットアップであったため、試しにスラックスから染めた。パンツはトップボタンがくるみボタンなので養生もせず染色した。
用意したのは、みやこダイオール(オリーブグリーン)×2、塩100g、10Lの折り畳みバケツ、アルミのボウル、100均のガサガサしたゴミ袋70L×2、菜箸、ゴム手袋、ミカノール(色留め剤)。
アルミボウルにみやこダイオール2つをぶちまけ、熱湯を500ml注いで菜箸で粒感がなくなるまで混ぜて溶かす。それをゴミ袋を2重にし、バケツにかぶせ、お湯を9Lくらい入れる。そこに塩と、アルミボウルの中身の染色原液を溶かし込む。
1回すすいでおいたスラックスを、濡れたまま染色液で満ちたそのゴミ袋に漬ける。口をしばり風呂場に置いて、時々足で袋を踏みつけ混ぜながら30分待つ。ほどいて染色液を流し、1回濯ぐ。そのあとミカノールを指示通りに入れて20分。また濯いで、中性洗剤で軽く洗い、さらに濯いで20秒脱水。脱水までは全てゴミ袋で行っている。そして陰干し。
これが結構縮む。股下も裾幅も縮んだ。全体的に縦横で影響が異なるが、3~4%は縮む。縮んだ服はシリコン入りのリンスですすぐと戻る事があるが、度が詰まった縮み方なのでそれも効果がなかった。工程の途中でお湯9Lを入れた際、45度位の湯だったため、縮みが強かったのは温度が高かったのではないかと推察。また、色ムラも発生。これはゴミ袋が破れるのを恐れて大胆にかきまぜなかった事などによるか。二重にしてたけど途中から一重にしたくらい丈夫なので心配の必要なし。
よって、ジャケットでは9Lのお湯の温度は30度前半の低めで用意。また塩は180g。気分。こちらも30分ほど漬けたが、浸漬20分でかなりぬるい感じだったので、20度弱になっていた気がする。まあひっくり返したり中のジャケットを移動させたり色々したのも影響しているだろう。
が、温度を下げた程度ではどうにもならず、結局寸法は全体平均で▲3%。タイトに仕上げている服なので着られなくなる心配もあったが、何とか着る事はできる。ただボタンはもう閉められないだろうが…。
あと気のせいかもしれないが、多少軽くなった気がする。元々、すすいだ時に水が緑色になっていたので、その残留染料が抜けたのだろうか。
ボタンは染めたくなかったので全てアルミホイルで包んで養生した。これはクリーニング屋も良くやる手法。茶色は当初の色を保ったままになった。
正直、ベタっとした色なので良い発色とは言えないが、まばゆすぎて着られないよりも全然良い。貧者の緑、あるいは老兵のカーキといった感じ。
前の発色も良かったけど、これくらいの方が落ち着く。ローデングリーンあたりを狙っていたが、スレートが結構乗ったためにもっと地味な色になってしまった。それにしても手縫いのステッチとか僅かな色ムラとかより細くなってしまったシルエットにより、アルチザン感が色濃く漂う気がする。落伍者の服の感じが出ている。路上感だ。貧者感。でも最後の一線を保つ綺麗な曲線とか、なんというか貧者は貧者でも、路上でカップヌードルを食べる時でもエレガントな人って感じの佇まい。穂村弘かいな。
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