マルタンマルジェラの靴ライン、22のレザーシューズ。

革はそんなに悪くない。昔、「マルジェラはエルメスと関わったから良い革の入手ルートを分けてもらっている」というさすがに嘘くさい噂があったけど、粗悪というものでもない。昔ボノーラ製エルメスの靴を履いていたのだが、その革の柔らかくテカる感じとこの靴の革がよく似ている気がする。

セメント靴だと思われる。セメント製法は大量生産に効率が良いからと、安価な靴で頻繁に用いられた末、悪い印象が付いてしまったので、セメント=アッパーも低品質という式があるんだろう。

革は柔らかく耐久性は無いのだろうけど、こういう靴に耐久性を求めてないのでどうでもいい。

 

靴ひもは捨てた。そもそも、タンがエラスティックで両側の羽根に縫い付けられておりセンターエラのスリッポンとしても使える想定の靴。気軽に履きたいので紐は要らない。

ただ、気付いたら最近その手の靴がよく目につくようになった。レユッカスとか、アーツのレースレスシューズとか。流行ってるんだろうか。

 

マルジェラの四ツ糸、靴ではこのように踵に紐が一筋入る。これが白度が高く目立つので、靴墨で手入れする時に紐にも塗り込んでいる。あまり色は変わってこないが、少なくとも目立たなくはなった。

 

中目黒の1LDKで見た瞬間、このキャップ部分のステッチが二本、間を空け走っているデザインと、「なんで親指が盛り上がっている・・・?」という独特な形に一目ぼれ。数回試着を繰り返し、数回店に出入りして、気付けば箱を抱えていた。結構経つけど未だに履いている。なんだろう。断捨離してもいいんだけどなかなか離れない。代わりになるはずだったウエストンのLe Mocはまだ実家のタンスで出番待ち。

親指が盛り上がり、人差し指~中指にかけて一度谷のように落ち込み、また小指にかけてゆるやかに盛り上がる。これ、写真だと分かりづらいけど、動いている時に光があたると上から見ても陰影が明らかに出、不思議な表情がある。

推測だけれど、マルジェラは足袋ブーツを立体で引用したのではないだろうか。親指とそれ以外の指の盛り上がり、間の谷で。あるいは親指の縦の動きなどを考慮するドイツのオーソペディック的な考え方が根本にあり、足袋ブーツもそこから発したものなのかもしれない。この定番のストレートチップはカビ加工やクラック加工など種類を変えてシリーズ化されているが、この形は途中まで維持されていた。最近どうかは知らないが。

タンの部分の色が元々の色で、白茶けたブラウンが上品だったが、今や普通のブラウンに近い。ダメージも増えてきた。柔らかい靴はこういう傷が味にならない気がする。こう思い始めると、服オタはすぐに煮たり焼いたり埋めたりしだす。

だからこの靴が、後にマルジェラからカビ加工とかクラック加工をされて発売されたのも理解できると思う。パンに服を埋めるドイツ人だっている位だし、靴を煮たりカビを生やしたりするくらいでは服オタ界でマウンティングは取れない。箪笥を付けるとか人間の皮膚を使うとか熊革を縮絨させるとかそういう方向でもオッ珍しいな、くらい。闇はどこまでも深い。