オーダーシャツの老舗と言えば、すぐに思い浮かべる二つの店が「谷シャツ商会」と「大和屋」。地方だと違うのかもしれないが、東京に住む私としてはその二つだった。
帝国ホテルやホテルオークラの中に店舗を持ち、外国からの旅客はもとより、白洲次郎や麻生首相にも愛用された「谷シャツ商会」。そのオークラでのオーダーシャツについて書いてみる。
 
 
 
ホテルオークラ店。
帝国、オータニと違うオリンピックを視野に入れた改装に入っていたため、谷シャツ商会は別館地下に移設して営業していた。
オークラの特徴を残す意匠が随所に残されている。
サウスウイングのロビーは、ぼそぼそとした英語と丁寧な日本語が吹き抜けの天井に控えめに反響し、薄暗い照明の中しっとりと絨毯に溶け込んでいくムードでその上品な雰囲気がグッとくる。欧風を意図して避け陰影を礼賛したモダニズム。小さいが別館にはその空気が残っている。
谷シャツ商会は2名でこじんまりと営業されていたが、伺った時は外国の方の先客が既にあり、丁寧に英語で対応されていた。
 
 
レザーで作られたトレイ。艶。
国産生地も選べ、価格は1万円台から作ることが出来るので比較的安いといえる。今回の生地はゲッツナーの無地をセレクトした。ゲッツナーで無地っていう選び方をする人は少数派だろうけども無地が好きなのでしょうがない。
 
 
 
2か月弱での仕上がり。襟型は入り口のトルソーに見慣れぬものがあったのでオーダーした。
「2段階ラウンド」とのこと。
 
 
通常、襟先が丸いラウンドカラーだが、これは襟先へ向かう端の線も曲線になっているというラウンドカラーである。ブリトラ。または80年代のアメリカか。
ポイントはシャツイチの時とジャケット着用時で印象が大きく違うところだそうだ。
 
 
 
 
釦がどうとか一切指定しなかったので、この辺は好感が持てる。
根巻はどれもしっかりめで綺麗な白蝶。
 
 
ガゼットはヘキサゴン。
これ、右の生地が違うのは南シャツの記事でも述べたフロントの二重仕様のために別生地を使っているからである。
 
 
しっかりと体型補正も加味してくれ、細部の指定もできる。
ギャザーなど、面倒をかける注文はしなかった。
 
 
唯一といえば、袖ぐりを深めにしたくらい。
 
 
 
前振りにはしなかった。強く言えばしてもらえる雰囲気だった。が、説明を聞き、今回のように袖ぐりを深めにするのであればあまり意味もないので・・・やめましょう、という説明を聞き、承諾した。
追加料金が無いのでもちろん工場は嫌がる。したがって店頭の販売員は出来る限り工数を削減するべく説得する。「これは意味がないのでやめましょう」ということを理屈づけて説明する。しっかりと学んでいる販売員であれば納得できる説明をしてくれるが、適当なことを言ってくる場合もある。そういう販売員は淘汰された方が良いと思うので、私の場合はその時点で注文をやめ退出する。
 
今回は正直、袖ぐりの注文をしたために比較できないのであるが、どうなのだろう。意味が無い事はないと思うのだが…。
またフィットはゆるめだった。南シャツや山神に比べ、カフ周りやAH、身幅はやや大きめ。この辺りはしっかり伝えないと作り直しを恐れて大きめに作るのだろう。又は推奨するフィットをそういうものと考えているのかもしれない。少なくとも今の私の気分ではない。
ただ、おおむね注文は聞いてくれるだろうから優良な店であることは間違いない。生地のレパートリーは結構偏っていたので南シャツが身近にある自分が利用することは無いかもしれないが、価格も手ごろだし接客も申し分ない。良い店だと思った。