アルメニア・ジェノサイド。
未だ論争の決着は付いていないものの、
150万人規模のアルメニア人への虐殺が行われたとされている。
オスマン=トルコで少数派だったアルメニア人。
彼らはムスリムが多数派を占める中で、少数のキリスト教徒だった。
宗教的対立がある中、第一次世界大戦でアルメニア人は
トルコ国内にいながら侵攻してきたロシア側についたりと、国内多数派との対立は激化。
そして100年前の1915年、4月24日。
欧州では”Red Sunday”とも呼ばれる日。
イスタンブールで著名なアルメニア知識人が100名規模で殺害され、
ここから死者150万人とも言われる(トルコは20万人規模と主張)虐殺がはじまった。
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フランシス・クルジャン。
フランスに生まれたアルメニア人。
当時、トルコからフランスへ亡命するアルメニア人は多く、彼の祖先も同じだった。
彼は25歳でジャンポールゴルチエの名香「ル・マル」を作り上げる。
その後、数々のブランドを渡り歩き、2009年に40歳で自らのブランドを立ち上げた。
最も人気がある香りは「アクア ユニヴェルサリス」。
聡明な静けさを感じる香り。
しかし他にも静かな香りは持っているので、他のものを試していた。
そしてアロマに詳しい友人から教えてもらったこの「ウード」をつけてみた。
というより、店員さんが謎の勢いで「付けていかれますか?いや、つけていってください是非」
ドラッグのプッシャーさながらの勢いで手首にプッシュされた。
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初めは「豪奢な香りだな」程度に思っていたのだが、時間が経った後、心を掴まれてしまった。
地下貯水槽クラスの大きな聖堂に自分がいるような、神秘的どころではない厳かな香りの中に、
何か熱源があって、血が流れるような官能性が見え隠れする。
京都は源光庵の血天井を思い出させた。
伏見城での自刃の情景、床一面に流れたであろう血、そしてその血の手形跡が残る天井。
血が染み込んだ歴史を、都の北で静かに包み込み、黙して佇む偉大な建築。
クルジャンは血の歴史をどう抱えているのだろうか。
空間と時間を香りで表現する調香師。
血生臭い生命力と欧州の洗練性を併存させた天才である。
もうすぐ4月24日が来る。
未だ欧州では国家間の非難と論争が続いている。
100年の歳月は未だ血を拭えず、ゆっくりと、呼吸している。