都市に住むことについて。

友人が原宿の狭い家に住んでいた。

その様子が楽しそうだったので興味を持ち、自分も窓から新宿の夜景が見えるくらいの都心に住んだ。

表参道や渋谷などに自転車で気軽に通えたので、セレクトショップに通ってみもした。魅力的なものやひととの接点は増えたような気がする。東京は楽しいし重要な出会いも多い。しかし、それほど快適ではないこともある。

築が古い物件というのもあるが、風の匂いや騒音などがやっぱり気になることもあった。ヨーガン・レールが自然がある程度近い場所にショップを構えたのも理解できる。

それでも、都市に住むということは面白い経験であった。

特に、大きい駅の雑踏には深い安心感のようなものがある。

新宿や銀座、渋谷の雑踏。

そこは誰も自分を知らず、自分も誰一人知らない空間である。そこに自分を埋没させるとき、そこでの自分は、会社や学校や家庭などあらゆるコミュニティの中にいる自分とは異なる自分である。その時、何かのように振る舞う役割は与えられていない。

例えば、地域のつながりが強い場所だとそうはいかない。街を歩いていて出会った人が自分のことを知っていた場合、その人に要求されるイメージを保とうとする働きが無意識に生まれる。

匿名の群のなかではそれがない。これが都市の独特の機能なのだということに、私は都市に住んでから気付いた。

都市には、アノニマスな中で自分自身を取り戻せる機能があり、それはある種の自由でもあるのだ。

都市は物理的にはうるさい。が、この意味では静かな空間である。