ストック3.エヌイーのベルト

 

シップスで副社長を務めていた中村裕氏が2005年に立ち上げた会社、ネクストエッジ。

2006年に倒産しているため、1年しか存在しなかった幻のセレクトショップともいえる。

 

ちょうどセレクトショップブームが落ち着いた頃だった。セレクトはGrifoniやhlamにはじまり、SOMETのトータル展開、元イッセイのパタンナーのブランドHaasなど、文字通りエッジの効いた品揃えだった覚えがある。

オープンしたての渋谷店に伺った頃、客層は文字通りエッジの効いた服装の方々ばかりで、これは面白いなと思った。あの規模での攻めたバイイングが印象に残っている。

またオリジナルも結構手が込んでいた。THEシリーズというオリジナルの定番ながらちょっと手のこんだラインもあったり。

そんな中でプレーンなベルトを見つけたのだった。

 

このバックルと留め方で即買だった。

こういうピンバックルでプレートのベルトがずっと欲しかった。後に結局バックルさえもないマルジェラのベルトを買ったりするのだが。

 

 

4mm厚の英国ブライドルレザー。ダークブラウン。

 

“PEWTER”。カジュアルなベルトでオーバル型のスズバックルの裏面にはよくこういう掘りが入っている。これはそのオマージュなのか、小さく控えめに文字を入れており、面白い。

またうろ覚えだが、ドリスバンノッテンのように、全てのオリジナルアイテムに名前をつけていたような気がする。その名前なのかもしれない。

 

店員の提案も面白く、このベルトは二つ留め方がある。普通に回り込ませたものを写真の遊環に通すのと、遊環に通さず斜め下に逃がす方法。

これも面白かった。バックル自体を左に持ってきて斜めに流し、上半身のスタイリングでバランスを取ったり。コントラポストを彷彿とさせるような、本当にエッジの効いた提案だった。

 

 

もう12年も使っているのか。光陰矢の如しである。

 

なぜネクストエッジが倒産したのかは記憶にある。WWDだったか。

当時、中村氏はレナウン単独出資のもとNeというセレクトショップを運営するはずだった。が、時は2005年。レナウン自身、ダーバンとホールディングスを設立し事業再編を試みる時期となっていた為、ネクストエッジ社への全額出資が不可能となり、ベンチャーキャピタルを別に加えることとなる。

渋谷や京都、六本木などに出店し、”次代の洋服専門店”をゆっくり作ろうとしていた中村氏と、短サイクルでの利益回収を望む出資者との意見が食い違い、結果的に期末に支払いが滞り清算。

あまりにも早い。確かにセレクトはアクがあったが、そもそもそのコンセプトで進める事で、御三家とは異なるポジションを獲得しようとしていた。マーケットのリターンを求める出資者の声が強く、意見が食い違い解散という例は当時からファッションブランド等で良く見られていたが、この件に関しては本当に残念だった。セレクトショップの同質化へ立ち向かうことを明言して立ち上げた企業が、マーケットインを求められたのだ。その先にあるのは結局目の敵にした同質化である。

今もセレクトショップはどこも同じようなアイテムを展開しているが、この先、少なくとも大手のセレクトショップについては同質化が解消されることは無いだろうと思う。