他人が選んだネクタイほど気もちの悪いものはない。

落合正勝

ドレスシャツの竹馬の友とも言うべきネクタイに今まで触れてきていなかった。それも妙な話だ。でも昨夏、「スーツの着用回数が年に1回以下が半数以上」というニュースがあった。ネクタイはクールビズが定着した頃から「いつか滅びる」とされていたが、このカジュアル化が進むほど、ネクタイはもっと一部の人の嗜好品になるだろう。

私はネクタイで差別化しようと思わない。気付いてしまうと気になるようになってしまう病気であるだけ。気にする人はほとんどいない。ただ、トレンドがあり、また好みも分かれ、オタクがこだわる所を多々含むものでもある。

今回はネクタイのディティールについての話。トレンドはあまり知らないので、偏見で触れることにする。

さてまずは要素の分解である。ネクタイのパーツは、基本は大剣・小剣・中継ぎの3つに分かれる。さらにその中の芯地、および裏地がある。タグとかは別にして、パーツはそれだけ。

フェアファクスのフォデラートタイ
裏地は、小剣も大剣も芯地をポケットに入れ込むように貼られている
全パーツ。芯地は繋がっているが生地は3つに分かれる

ネクタイの議論は、色や素材、そしてコーディネート・締め方である。グレナディンのネイビーが良いとか、夏はガルザ、冬はウールが良いとか。色はもとより、それらの素材感も含めスーツにどう合わせるか。結び目の大きさは、垂らし方は、ディンプルは。襟先の上端で締め襟羽根のX字を作るのか、ボタンを外し結び目をずらして気の抜けた感じを作るのか。

そういったポイントは語れば尽きない。このブログはニッチなので、それらは他に譲り細かいポイントに目をやることにする。それは以下だ。

①剣幅
②裏地と芯地の有無
③ヘムの処理がどうなのか

見る人が見れば「ああ、トレンドがよく出る所ね…」とおわかりいただけると思う。ただ、②はたんに「薄さ」の話と思う。

①剣幅

栗の小紋と言えば、のネクタイ。大剣幅は8.0cm。

割とコーディネートにも影響するので剣幅はメジャーな領域である。大抵は8cmか8.5cm。大きいものは9cmとなり、7.5cmだと少しナロー。身長が高い人ほど太巾にする。ディオールオム全盛期にナロータイのブームが来て過ぎ去ったので、今はナロータイは中々に難易度が高いアイテムになっている。

ラペルの太さに合わせる、というのがあるのだが、正直大きなラペルだと8.5cmでも9cmでも大して気にならない気がしている。だって言ってしまえばただの折り目だし…。

8.5cm。南シャツで10000円台で買えるウールのスフォデラートタイ。カノニコだったかな、割と良かった
8cm。このステッチのパッカリングが良い、という人はナポリ系には多い

②裏地と芯地

薄さに関わる要素だ。たまに昔のネクタイで、今使える良いものが出てくる、という話がある。具体的に言うと80~90年DCブームのブランドで、「ペッラペラのネクタイ」が売られていたことがあり、ごくまれにたんぽぽハウスとかで数百円で手に入るので、それをありがたがる業界人が多数いた(今は多分ビンテージブームで食いつくされたのでは)。薄くてペラペラだから良い、という事もあるのである。

さて、その薄さに関わる構造だが、これはいくつかの分類がある。

フォデラート

ターンブル&アッサーのウールタイ。

あるいはレギュラー。表と裏と芯でできてる。市場で売られているだいたいのネクタイはこの仕様。名品、鎌倉シャツの50ozもこれ。普通、芯地は剣先まで入っているし、化繊の裏地が貼られている。当たり前だがスフォデラートや折が少ない芯無しの方と比べ、しっかりとしていて厚みがある。

スフォデラート

カペッリのスフォデラート

裏地が無い。加えて剣先の芯地を省略しているため、軽やか。大剣裏を見れば空いているのでわかる。私が最も持っているネクタイはこれであり、市場でもスフォデラートは徐々に増えてきている実感がある。ただ、ブリティッシュの仕立てにはやはり合わないし、市場にイタリア系の軽い服が多いから増えているだけだと思う。

軽い仕立てのドレスアイテムが増えたから、という事でもあるが、締め心地が気軽で、ノットが大きくならない。アーモリーが買い取った後のDrake’sも結構スフォデラートが多く、よく市場を見ているなと思う。解体した記事もあった。

芯無し

名も無き職人の14折だかなんだか。

イタリア語でなんというかは知らない。この場合、大概は云々ピエゲとなる。7折のセッテピエゲが代表だが、あとは折った数の小競り合いなので、個人的にはどうでもいい。12回のドディチピエゲのジュストビスポークとか、昔のフィノッロは9回のノヴェピエゲだとか、20折以上のネクタイもある。何ピエゲだなんだの話は不毛なスペックバトルである。折れば折るだけ偉いわけではなく、重くなるしアイロンしづらいし扱いづらくなる。それが良いという人はいるかもしれないが、「シャツは運針が細かいから良い」、わけでもないのと同じで、その要素一つで何かの良し悪しが判断できるものではない。見た目や扱いづらさの問題から、私はそれほど持っていない。

③ヘムの処理

きちっと裏地でとじられているのも良いし、極限まで細いハンドロールもまた良いし、普通に折り返して縫っているのもそれはそれで良い

ネクタイの端の生地の処理方法だ。ヘムの処理は、実際に作っている人の分類が適切かつ明快だったので、そちらに譲る。

https://tie-forza.blogspot.com/2021/04/blog-post.html?m=1

個人的にはハンドロールがよく、よりぐけ縫いが正義。生地にもよるが、これには同意する。潰れていて何が悪いんだ、という話になるが、結局は縫い目と同じように「立体感がある」ことが重要なのかもしれない。そんなものをありがたがる性格自体、なんの意味もないが。

こういう普通のビジネスマンの恰好もしなくなってしまった

さて、こういう細かいところにこだわったものってどこで買うの?とかいう話が出るが、セレショで現物を見たり店員に聞けばすぐに出てくる。オンラインなら2万円代でshibumiとかVanda Fine Clothingとかで買うのが今風なんだろう。なお、個人的には14千円で国産のハンドロールが買えるThreeThreadを推したい。フレスコのペイズリー、求めていた質感と雰囲気で重宝している。

折り回数が多いものは割と表から透けて折が見えるので、それがネックでもある

長々と細かい話をしてきたが、一部の好事家以外は誰も気にしていないはずだ。だから気付かれることもないだろう。また、当然ネクタイにも正解はない。ビルドアップショルダーにスフォデラートタイを締めていても、99%の人は何も感じない。私は違和感を感じるかもしれないが、だからといって不正解というわけでもない。こういう狭量な考えだと本当につまらなくなるので、なんかもっと楽しい感じでネクタイと付き合っていたい。

その意味では、ドルガバのピンナップシリーズとか、ああいった洒落があるのも良いのかもしれない。柄はさっぱり気にくわなかったが、その古臭い柄の裏側にピンナップをしのばせるセンスは流石と思った。昔持っていた時にラッパーに気に入られ買い取られたが、ストリート系の恰好にそのネクタイを合わせると、抜群にクールだった。

ネクタイの今後の可能性を見出すのは難しいかもしれないが、元々機能を持たない象徴性が強いアイテムだ。そういうコノテーションを糧にしたセンスあるアイテムがもっと生まれることを願っている。