さて、何が待ち受けているにせよ、それは虚無ではありますまい、ミセス・ベン。

カズオ・イシグロ”日の名残り”

数少ないイギリス製のシャツである。

フロント8釦。

Drake’s。彼らはイギリス製のネクタイを生産していたので、その「背景をもっと色濃くしたい」という事でわざわざ少ないイギリスのシャツ工場を買収し、イギリス製としてシャツを作っているらしい。Bespokenのような英国産を守るような社会的な意義もあるのかもしれない。

ブランドの歴史やCleeve of Londonを買い取った事は以前触れた通り

珍しい開きっぷり

特徴は一風変わったロングポイントの襟型。ボタンダウンの襟型は、羽根を長めに作り長さより短めの位置にボタン留め位置を作る事で、猫足と表現される襟のロールを作る。ボタンを外すと、スタイリングでたまにあるボタンダウンのハズしルックになる。マイケルドレイクはよくその着こなしをしていたため、このドレイクスではそれをインスピレーション元にそのまま襟型にした、という事だろう。

フラシ芯。
ステッチは1cmあたり6針。良いとは言えないがイギリス製であることも踏まえると、そもそも多く縫われる事はないから普通のレベルだろう。

襟芯を抜くと、ゆるくカーブする、ないしは跳ねる。こ…これが…これがアーモリー流か…!これがアーモリー流…!と私の心は泣きながら逃げ出した。自然体で抜群のセンスからのオシャレ最前線を繰り出すマーク・チョーの恐ろしさ。なんだこの少し古い映画の名優が演出するこなれ感みたいなもの。これは唯一無二。

柄合わせは良好。胸ポケットは折り返して上の開口部にカフが付くような縫い方。
肩も比較的柄合わせが良好。
直径11mmで薄さは1.5mm。
きちんと全て根巻されている

ところでこのシャツはイギリス製でありながらもつくりは抜かりがない。利ブランドにあたって工場を指導したのか、それともCleeve of London自体がとても良い工場だったのだろうか。どちらもなのだろうが、割と勘所を押さえたつくりになっている。

前振りまでしていたら逆に気持ち悪いと思っていたが、それは無かった
良い輝きを持っているので、白蝶ではないだろうか

唯一「おや?」と思ったのはスプリットヨークではなかった所。ロンドンストライプでイギリス製のシャツと言えばスプリットヨーク、という固定観念があった(ヒルディッチ&キーの例)ので、ちょっと残念だった。いや、これがイートウツのような無地とかだったら別に良かったんだけど、ロンドンストライプなので…個人的にはロンドンストライプのスプリットヨークが好きなので、割と残念かもしれない。

ちなみにガゼットもない。スプリットヨークもガゼットも、割と着心地や耐久性に関係がない所(と思っている)なので、それらを捨てて釦や柄にフォーカスするという合理的なアプローチなのかもしれない。

中丸カフス。これも今風である。

今の所シャツで最もトレンドをつかんでいるのはドレイクスに他ならないと思う。しかもその表現にいやらしさがない。正直イギリス製のシャツでここまで着心地が良かったのもこのシャツが初めてだし、何というかその意味では「イギリス製っぽくは全くない」。ただ、エフォートレス・カジュアル化という大きな時代の流れからすると、イギリス製の硬いシャツが淘汰されていったのはやむなしと言えるだろう。

ドレイクス。生き残りをかけ、新しいイギリス製のスタイルを完成させていってほしい。