イタリア語で「おとぎ話」。
私がこのブランドを知ったのは雑誌でだ。
デカい蹴回しに、どこか野暮ったいシルエット。タイトなスタイルが定番の現代で、これがテーラードジャケットと言えるのか。この生地が、このたっぷりとしたボリュームと線が、動いたときにどうなるのか。なぜこのようなものを考えたのか。
文字情報も興味深い。まず、問い合わせ先の平さんって誰だ。会社名ではなく個人の名前のようだ。知らない。掲載問い合わせ先が直通の携帯電話。この人自身職人で、日中はバイヤーをしていて深夜に一部の手縫いを自らやっている・・・?
謎に包まれたこのメーカー、雑誌で出会って以来、様々な人に何か情報が無いかを聞いて回った。しかも当時はWEB上で全く露出もしていない。検索してもひっかかったのはInstagramである玄人向けブランドのデザイナーが作ってもらったという投稿のみ。着た姿もない。
ところがある日、あるスタイリストとして活躍する人が着ていたのを発見。それを皮切りに、レショップでイベントをやるだの、別注コートを作るだの、様々に露出がはじまる。満を持して電話してみた所、レショップ店頭にいる日があるので都合がどうか、と言われ会いに行くことになった。
第一印象はまさに職人。何名かシェフに知り合いがいるが、近いものを感じた。
生地選びの中では玄人好みの旧織機織のヴィンテージ生地のほか、度が詰まったものなどを提案された。
去年の7月にオーダーし、4・5か月位で上がった。
パターンオーダーをベースにし要所を手縫いで仕上げたもの。結局、私の体型が特殊過ぎたため型紙を引き直したらしい。すいません。
さて、オーダーでは肩回り腕回りのフィット感はあげたいという事と、着丈は平イズムに近い形で構わないと指定した(76cm)。
着てみた感触といえば。恐ろしく軽く、動くたびに空気を孕む。また着方で表情が豊かに変わる。一番下の釦を留めるスタイルも成立するようラペルが作られている。ポケットに手を突っ込んだ時の前裾をくしゃっとさせる感じがナポリ風らしいが、なるほど軽い生地じゃないとこれは出来ない。
平さんの提案の一つに、「ソファとかにさっと引っ掛けておいたものを、ちょっと外出するかって感じで引っ掛けて着る感じ。Tシャツの上とかにね」といものがあったが、実にこの感じがマッチする。白いTシャツとスニーカーで着るとイタリアのうさんくさいおっさんっぽい感じになって良い。
かといって、最近セットアップスタイルで販売している服みたいに、ビシっとしないかと言ったらそんなことはない。タイドアップして革靴に合わせても全く負けない。これはラペルとスタイルに依る所でもある。いわゆるカジュアルセットアップのスーツなどは、大抵シングルブレストでラペルが細いとか、着丈が短いとかという仕様で、タイドアップスタイルを前提としておらず、垢抜けない。また、生地は大抵軽やかなもの・或いは仕立て映えとは逆の要素を持つものであり、ネクタイや革靴と合わせると途端にその質が矢面に晒され見栄えしなくなる。
これはパナマというコットンの度が比較的詰まった旧織機で織り上げた生地で、ラペルは太く(これでも小さいモデルの方である)、ダブルブレストでフラワーホールも手でかがってある。
タイドアップが似合わないはずがなく、クラシックな雰囲気をそのまま持ってきている。
ベントはノーベントだ。アットリーニを思わせる。でもナポレターノスタイルなら着丈は短めだろう。それを裏切る圧倒的な長さと、それをカバーする生地の軽さと裾のクロップド丈。
これは平さんがエクボと呼ぶ縫製時のパッカリング。平さんは好きらしいが、人によって嫌いな人もいるのでオーダー時に聞かれる。個人的に崩して着る事を想定したので自然発生するものはそれでいいですとオーダー。あんまりやりすぎると「雑な手縫いやヨレた風合いを “味” として楽しむのは日本人の得意とするところ ≒ いいカモ」って某モデリストのお話を思い出してしまうのでほどほどにしましょう。
大見返しで袖裏のみ裏地付。でかいのにとても軽い。繰り返すけど空気を孕むスーツというのはこういうのを言うんだろう。これなら(履かないけど)下駄とかサンダルを履いても合わせられるだろうし、Tシャツの上に引っ掛けても全然OK。
今後、スーツ・ジャケットのスタイルの流行がどう変わり業界がどう乗るかはわからないが、La Favolaのスタイルは全然それとは違う流れの所にある。しかし平さんの美意識は一貫性があり、面白い一着を作り続けている人には違いないだろう。普通のスーツに飽きた人は是非、触ってみて欲しい。ちなみに店頭には無いので、興味ある人は平さんの携帯電話番号がLa Favola担当みたいな感じでネットに出てるのでググって電凸してください。
4件のコメント
4件のピンバック