人が買い物をするのを羨ましいと思ったことはあまりない。むしろ、無駄遣いしてかわいそうに、くらいに思う。
松任谷正隆”僕の散財日記”
松任谷氏は買い物好きで有名である。FAKE LONDONのマフラーの衝動買いからはじまる「僕の散財日記」では様々な買い物体験が綴られており、買い物後に倒れる位の買い物にかける異常な情熱がよくわかる。栄養ドリンクを携帯し、気になるアイテムは異なるサイズ・異なるカラー全てを試着。同じアイテムでも10回は試着する事すらある。よく店に嫌がられないな…と思うがしっかり買う客だからこその関係なのだろう。
その松任谷氏が今までの買い物でのベストを語っている記事がある。ベスト1はルイヴィトンのミンクのベストだ。1年中出しっぱなし、とある。ここで気付いた。私は冬場、家の中でカシミヤのシャツを着ているが、料理や洗い物をする際に袖が気になったりして脱ぐことがある。一方で妻が家の中で着ているのはダウンベスト。快適そうだ。動きやすく、確実に暖かく、脱着しやすい。たぶん松任谷氏も「ちょっと寒いな」という時にサッと羽織れる距離感にミンクベストを設置してあるのだろう。恐らくそのまま出られるようなもの。
そういうワケでこれだ。ムートンベスト。良いベスト、という観点で探していたのはムートンではあるが別のものだった。しかし渡りに船。ムートンを集めている人の「いる?」という声を契機として家にやってきた。自分がエンメティを買うという事は恐らくないだろうと思っていて、それは「チョイ悪」的なイメージがあるからだ。ベストなら少しいなたい感じがあるので良いのでは、と思った。当時は。
松任谷氏もそうだが、個人的におじさんはベストが好きな人が多いイメージがある。おじいちゃんになるとフィッシングベストとかを羽織りだすが、ニットベストの割合も多いと思う。ニットベスト着てる女性や若人は学生を除けばあまり見かけない。やはり体幹が冷えに対応できなくなるからだろうか。荷物を手で持ちたくないというニーズもありそうだ。いずれにせよおじさんのイメージアイテムの一つになっているのではないか。
そういえば似たような感じのフリースのベストが流行っている気がする。パタゴニアとか。なんでかは知らないが、外見でいったらほとんど見分けがつかない。ただ触り心地は違う。これは羊の地毛なわけだし。
またこれはダブルジップなのだが、冬場に不用意に触れると不快な冷たさに見舞われる。
このベストの最もいただけないところは裏地である。化繊でサラッとした生地だが、静電気がかなり発生するし、ポケットの袋布も同じもので肌触りが良くない。おいお前そういうとこだぞ、と言いたくなる。たぶん悪気は無いと思うんだけど、こういう所で残念に思ってしまうと途端に自分にとっての魅力が失われる。
松任谷氏のミンクベストは60万円ほど。もう元は取れたらしい。こちらはまだなのだが、そもそもそんなに着るだろうか。カシミヤのニットベストの方が良く着ている気がする。と思いながらもひとまず着てはみる。
レトロXをはじめ、数年前から流行っているボア系アウター。ムートン系のアウターでもアウトドアのディティールに寄せて作られているものが多く、そのせいで一見ムートンに見えない。
野性味あふれるものは似合わないので、これくらいでちょうど良いのかもしれない。どうなんだろう。松任谷氏のように吟味に吟味の上、試着を繰り返して購入しても、着ていくうちに心は変わっていく。迷って決意して買っても、迷わず即時に買っても、結局それとは関係ない所で心はうつろう。どこまで行っても、長く使いきったな、と思うものはやはり事後的にしかわからないのかもしれない。
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