美しい靴を作るには三つの要因が必要である。
シルヴァノ・ラッタンジ
第一に職人の技術、第二に洗練されたセンス、最後にその国が伝統的に育て、なめしあげてきた牛の革である。
2012年に逝去されたステファノ・ベーメル。靴の修理人からはじまった人生は享年48と、あまりにも早く幕を閉じた。悲しく、美しい靴。
知名度は高めではあるものの、英国靴のエドワード・グリーンやジョンロブ、フランスのJMウエストンに比べると少し劣る。それがブランドの位置づけのようだ。ただ、イタリアの靴では知名度は間違いなくトップ。あらゆる靴の中でも、知名度に比べ品質は高い位置にある。
このベーメルの定番がシングルモンクストラップ、201である。私の偏見ではステファノベーメルと言えば、落合正勝も愛用していたフルブローグの601か、このシングルモンクのイメージがある。
以前ビスポークのステファノ・ベーメルの靴を見る機会があった。イタリアはイギリスと違いハンドソーンの土壌が広がっているが、その中でもステファノ・ベーメルのビスポークはズバ抜けているように思える(値段もズバ抜けている)。これは既製靴として展開されているものだが、ハンドソーンであり、見る度に私は「この完成度は既製靴と言っていいのか」と思っていた。これは銀座のシューケアマイスターと全く同じ感想である。
シングルモンクストラップ。アルプス地方のキリスト系修道士が履いていたことから、「モンク」という名前が付いた型。この話を聞くたびに、モンクってもっと貧乏くさい、それこそ草履とかサンダルのイメージなんだけど、ほんとかなぁと思う。マシな靴履いててもバブーシュとかカンフーシューズみたいなものを履いてるイメージ。
今の日本では、どちらかというとダブルモンクの方が好まれており、フォーマルにも適している。コーディネーションもしやすい。というのも「ギョーザ靴」のように、シングルモンクストラップは「昭和のおっさん」という印象と紙一重であるからだ。だからこそ重要なのは金具なのである。革製品において視線が集中する箇所、金具。
だがステファノ・ベーメルは抜かりないのである。以前、コルノブルゥの清角氏と会話した際、「ベーメルのシングルモンクはいい、金具が特に」という話になった。コルノブルゥのシングルモンクの金具の探求にはかなり時間をかけたのだろうと思う。
私は映画俳優のダニエル・デイ・ルイスが好きだ。特に一番好きなのはmilkshakeがミームにもなっている、「ゼア・ウィル・ビー・ブラッド」。ジョニーグリーンウッドの音楽も本当に素晴らしいが、ダニエルの迫力を感じたくて何度も見てしまう。「ギャング・オブ・ニューヨーク」も「リンカーン」も良いが、言語化できなくはない。このダニエル・プレインビューだけは違う。わからないが圧倒され、魅せられる。
そのダニエルが、映画俳優をやめてまで一時期ベーメルに弟子入りしたほどである。抜かりないのだ。納得できる美が宿るまで諦めない、そういう靴職人の意志が感じられる。
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