このペンを俺に売ってみろ
ウルフ・オブ・ウォールストリート
「ウルフ・オブ・ウォールストリート」という映画がある。ディカプリオの演技がバキバキに光る傑作映画だ。冒頭で出てくる主人公の上司、Mマコノヒー演じるマークハンナ。彼のスーツスタイルが良い。きっちり構築的なバンカーストライプで超なで肩。彼は真昼間の仕事中、高層ビルのレストランで酒をあおりドラッグをキメて、主人公に「もっとマスをかけ」と説教し、バリバリ仕事をする(※なぜマスをかけなのかは観てみましょう)。彼はブラック・マンデーで舞台から消え去ってしまうが、ウルフ・オブ・ウォールストリートとなる主人公は彼の教えに忠実に狂っていく。
ニューヨークはウォールストリートの高層建築物を指して摩天楼と呼ぶが、フィレンツェの筆記具メーカー、Viscontiは人々が魅せられたそのSkyscraperを模したペンを作った。天を摩す、つまり空を擦る(sky scrape)者と呼ばれるウォールストリートの高層ビル群は、日夜幻惑的な金融資本を生み出している。その所業はゴールドマンサックスが言う所の神の仕事である。
天を衝かんとする男根のごとく尽きる事のない欲望。その底なしさが摩天楼の構築を可能とする力の根源であり、リーマンショックの阿鼻叫喚の中、数億ドルの報酬を手にするに値する神の使い、と自称する根拠になるのだろう。そういったおごりが批判されるような時代になったが、まだまだ彼らが盛者であることに変わりはないし、生み出された都市の摩天楼の夜景がたいへんに美しいのは確かである。
この「Wallstreet」には色がいくつかある。日本に入ってきたのはグレー、レッド、グリーンの3色だった。ブルーも展開があるがそれは海外のみ。
万年筆やボールペンについては疎い。パイロット製のエルメスのノーチラスが欲しいなと思うくらいだが、15万のボールペンはさすがに高すぎるし、そこまで出して所有したいほどの欲望もない。そう思っていた時に初めて見かけたイタリアはフィレンツェの万年筆メーカー、Visconti。
レンブラントやゴッホといった定番モデルに加え、シーズナルなものや限定品などを扱っている。特に高価なモデルは実物を見ると凄まじく美しい。Meccaというモデルのボールペンがめっちゃ欲しいと思ったけど200万を超えるので話にならなかった。まあ、とにかく魅力的なデザインのものが多い。
セルロイド。イタリアのクラシックな万年筆と言えばセルロイド。19世紀中旬に誕生した、人類史上最初の人工樹脂であり、最初の熱可塑性樹脂。誕生するまで、熱して液状にしたものを鋳型に入れ成型する、というものは存在しなかった。セルロイドはそれまで象牙が担っていた用途を塗り替えた。最初に作られたのはビリヤードボールと言われている。そこからおもちゃや服のボタンなどが作られたが、可燃性が高くその危険性から徐々になくなり、いま残っているのはメガネフレームやギターのピックくらいである。(大量に余ってるClaytonピックを燃やした時を思い出した)
なぜセルロイドか?世界最初のプラスティックで、使いやすさよりも、古くからの見た目・手触りの良さを愛するイタリア人の性格でまだ生かされていると言える。燃えやすいし、長期保存で劣化するし、加工は大変で工数が膨大にかかる。20世紀中旬にはアメリカでの法改正、排除運動が活発化する事により衰退。虫の息になった。
セルロイドの深みのある色、表情、質感は、それ以降の技術躍進で使用可能になった素材で表現できない独自性を持っていた。その美しさの虜になる人はまだ一定いるために、この分野が成立する。見る人が見ればわかるっていう意味ではビスポークスーツみたいなものだろうか。
茶と緑は合うので、合うには合うが、やかましいような…
万年筆は中田製作所やLAMY、Pelicanなど試してみたが、そもそも書く時の音と感触が苦手で、すぐにこの分野は追うのをやめた。ボールペンにすると(200万越えのボールペンを紹介しておいてなんだが)沼も大して深くないので、道半ばで帰ってこれる。やっぱり物事はほどほどが良い。働きづめて金を稼いで高層ビルを建てるなんてどうかしているので、自分には縁がないとわかる。勝手にドリルや穴を研究している方が性に合うし、そういう人間の方が興味が湧くのだろうな、と思う。
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