オランダの新進気鋭ブランド、100HANDSのシャツについて。

アクシャット・ジャイン(AKSHAT JAIN)というオランダで金融業とソフトウェアエンジニアを営んでいた方が立ち上げたブランド。インド出身であり、自国の優れた製造工場を使って手仕事をテーマにしたブランドということか。

インドのシャツというと、ラジェシュ・プラタップ・シンの他、ドレスシャツではCAMESSIなどがある。

インド人はシャツが好きだ。織物業が盛んなのもありそうだが、調べると紳士服市場は2010年JETRO調査でシャツ売上高が26%とトップ。続くパンツは23%、スーツやTシャツが9%。

①高温多湿のためスーツは着たくない 

②Tシャツはブルーワーカーのもの

とかだろうか。東南アジアでは、ワイシャツを着ていると店で応対がマシになる。バリ島でもコテージの従業員にシャツ着用を勧められた。ホワイトカラー層≒お金を持っているため丁重に扱う、と見なされるらしい。インドはカースト制度特有なのか、上記②の傾向が顕著なんだろうか。カジュアルシーンでもポロシャツの着用率が高いイメージだ。インド生まれの会社の同僚も、夏はほとんどオフでも半袖シャツorポロシャツ。そんなわけで、シャツ生産ノウハウに優れた工場があっても不思議ではない。

ツイル生地の太目のストライプ。間近で見ると織りがよく見える。

100HANDSにはフルハンドのゴールドラベルとセミハンドのブラックラベルがある。ゴールドラインは手裁断で32か所手縫い。ナポリのD’avinoが25か所ならこっちは32だ!と数字が大きい奴が勝つ世界みたいなのまだあるのだろうか。ただ、ブラックラベルも裾巻きと身頃線をマシンにした位らしいのでどっちでもいいよ、もう。

ボタンホール。これがキモ、というかこの為に買ったシャツと言って過言ではない。100HANDSのオフィシャルにも画像があるが、丸い刺繍枠の上にシャツの前立てを置き、超細番手の糸で細かいステッチワークを施したもので、イタリアのボタンホールとは別次元の細かさ。ボタンホール一つに35分程度かかるらしい。どうなってんだこの生産ライン。機能面に意味があるのか、というと使っていて実感できない。

つまり敬意。オマージュ。スピリットだ。根性が入ったボタンホールと根性が入ってないボタンホール、どっちが良いかという話だ。

剣ボロには控えめにブランドロゴが刺繍で。これも手なんだろう。柄合わせも良く出来ている。

カフの円錐形は柔らかくフィットする。

襟の星留めは割と目立つ。個人的にはあまり好きではない。

ただヨークや袖回り、バックヨークの雨降らしに星留めが見られない。フィナモレやイングレーゼなど、あらゆる所に全部盛りで入れてくるブランドもあるが、この二箇所を排したのは好感が持てる。

裾巻きは驚異の2mm。手巻きで2mmだ。marolとは違う根性が見える。ガゼットも1cm以下の小ぶりなものがギュッと収まっている。

当然袖付けは手。手縫いの幅もARCODIOとは比べ物にならないほど狭い。

だが、前振りにはなっていない。その必要性は無いと判断したということなら興味深い。袖付けを後付けで前振りにする仕様は「意味が無い」とする人も割といる。パターンを変えずに縫製線だけずらすという、意味のない工程増に悩む生産者の話も聞いたことがある。ただ、100HANDSは手裁断とも聞くので、どこまで考えてやっているのかはわからない。

総じて言える事は、5万円だろうが手縫い箇所をアピールしようが間違いなく良いシャツだという事。今更手縫いアピールが響くのだろうか、と思っていたが、ボタンホールの美しさに加え、襟型も研究に余念が無く綺麗。価格は上がってきているが、相応のシャツと言えるだろう。