一言で言うと「イタリア仕様シャツをフィリピン製にすることで5500円と廉価で提供するシンプルな白シャツブランド」。

140番手双糸、ジャージー、リンクルフリーなど色々と打ち出しているが、全て型は白シャツのみで柄無し色無しポケット無し。

セミワイドのFIDELIO、生地は140番手双糸でツイル。透けはあるが、光沢があり柔らかい。


襟の空き具合は綺麗だ。襟羽根の外側のラインが曲線になっているのがポイントだろうか。

だが、第一釦を留めた際に襟羽根の首元部分が少しズレる。実は、ボタンホールの糸処理が甘く釦に絡まったりという点もあった。他に購入された人のものは襟にシワがあったりもした為、検品が甘いのかなと思っている。

初めて見た時、似たような売り方のブランドを思い出した。青山商事率いるスーツカンパニーが2012年頃立ち上げたライン、アントニオ・ラヴェルダだ。

イタリアシャツのディティールを詰め込み、中国生産にして価格は5000円弱に抑えたもの。鳥足留め、袖の前振り、8ステッチ、スプリットヨークなど当時はディティールのアピールが多かった。今は店頭でのフェイスも減り、売れたという話も聞かない。最近はテープ縫製をアピールしていたが、方向転換だろうか。似た攻め方でIYコラボLimited Editionもあったが、こちらも終了した。

それらからすると、袖の前振りとか縫製仕様などは、5,000円前後で買う層に訴求として響かないのではないか。

脇の縫製線3mm。裾は3mm~5mmとブレがあるので、技術的には今一歩。

ガゼットは小さくシンプルにまとまっている。

釦。白蝶貝3mm。 代表によればボタンは装飾品だと考えているため3mmにしたとのこと。


袖山から脇下にかけて縫製幅を狭くする。袖山部分はいせ込みのスペースを散らす用途として幅広部分を使い、脇下部分はもたつきを抑えるために細くする。scyltでも用いられていたFRAY流だ。

が。問題はハンドステッチ。写真には写っていないが、ピッチが1cm以上あり、大きすぎる。しかも施されているのは意味がない位置。ちなみに左腕の脇下はもうほつれてきた。申し訳程度ですら無い。

湾曲した袖付けの方が効果としてはあると思う。Limited editionではそんな配慮は無かったが、稼働の確保はこちらの方が重要。ちなみに鎌倉シャツも最近は湾曲している。

このマニカっぽい皺、縫製不良なのかどうなのか・・・?

今の段階では、私は鎌倉シャツを選ぶだろうなと思う。検品能力にまだ不安があるからだ。

生地が優れていたとしても、細かい場所の瑕疵により、思わぬストレスが発生するリスクがある。これは経験効果で解消するのだろうか。以前からシャツを作っている工場だとの事だが…。

気がかりはもう一つ。e-Beginでこのような記述があった。「一枚5500円にした理由は、惜しみなく着られる価格帯にしたかったから。ビジネスのカジュアル化が進んだ今、オフィスに“置きシャツ”して必要なときに着替え、何度か着て汚れたら捨てる……、というスタイルも、特にエグゼクティブの間で定着しつつあると聞きます。極論、アルコディオの白シャツは使い捨てでいい。高価なものを汚れてまで着るより、常にパリッとしたシャツを着ていたほうがカッコいいと思いませんか?」

私はセレブでもエグゼクティブでもないし、一度着て捨てるスタイルも良いと思えない。ライナスの毛布みたいに、 気に入ったものを着込み、自分のものにしていく過程が好きだ。

それに自分がSDGsやエシカルの流れに無縁でいられるのであれば、「フィリピン製」のタグを見た時に無意識にダッカのビルがちらつくことはないだろう。この工場の労働環境についての記述は見当たらなかった。

また、「手縫い」というディティールは有用性よりも「職人の手仕事への敬意」というものの方が大きいと最近は考える。そんな中、消費されるために編み出された記号的な手仕事に、しかも使い捨てられる白シャツに施されたそれに、果たして敬意はあるのだろうか。

インドの生地工場の映画、「人間機械」を見て以降、縫製不良とかほつれてくるボタンホールとかささいなシワの後ろに、生産ラインで眠たげに機械を操作するインド人を思い出す。

というわけで(別にエシカル面での選定をする主義ではないが)私は現状アルコディオのシャツをこれ以上買う事はないと思う。