冬の前にわずかに訪れるのみとなった、秋。彼のことが好きだ。しかし、昔からよく泣く奴だったが、最近は突然キレたように暑くなったりする。加齢からか、情緒が不安定になってきている。でも彼のことを好きになってしまったのだからしょうがない。便りが風にのって届き、AWを引っ張り出せる気候を肌が感じ取ったその瞬間、服好きのセロトニンとドーパミンは高値をたたき出す。
それはなんとなくブーツを履こうかなと思いはじめる時期でもある。辛いけれど美しい705を大奥の箱から取り出す習慣。今はもう705はいなくなってしまったので、秋になったしサイドゴアを呼び出そうか、と出したのはイタリアのボノーラ。


ボノーラの事を書くことなどないと思っていた。靴好きの間で一定のカルト的な靴として評価されているボノーラ。位置づけとしてはタニノ・クリスチーみたいに「イタリアの靴の黄金期ていうのがあってだな…」という蘊蓄込みで語られるブランドであるイメージだ。
ボローニャで古くから工場として手製靴を作っており、一時期はジョンロブの生産を手掛け、しかもその時期の評判が良かった。2003年に倒産するまでの「旧ボノーラ」は中古市場でも一定の人気があるらしい。らしい、というのは私は別に靴好きなわけではないので、その辺を渉猟するスタミナが湧いてこない。基本的に靴にお詳しい方から聞いた話で構成された知識。なので手にする事もないと思っていた。



以前も言ったけど、結局サイドゴアってフィットをきちんとすると楽に履くものではなくなるため、ジップブーツでよくない?と思ってしまう。少しナルシズムというか”漢”要素を持つのがブーツなので、もういっそ金属ジップを付け、ナヨいゴムを取っ払った方が振り切れる。だからブーツ好きにはLEVERのジップブーツとかの方がよっぽどふさわしい気がする。クラシックな人がヴィクトリア女王ガーとか言うために所有するのがメインな気がしている。アメカジブーツみたいに粗野な長靴ライクな見た目にもなりにくいし。



これが旧ボノーラなのか詳しくないのでわからないけれど、一つ言えるのは軽さ。グッドイヤー仕立ての705に比べ、遥かに軽い。ボナフェを初めて履いた時とかビスポーク靴の時のそれ。ハンドソーンを最初に履いた時のあの感覚が、ブーツを履いた時に出てくるとびっくりする。ブーツってそういうものでしたっけ…?となる。でも本当に返りもよいし、ボノーラ、すごいメーカーだったんだなと毎度思う。


最近、パンツのすそ幅が太くなり、フレアなども浸透してきた流れでようやくこういうブーツを裾のラインから流してつなげる形で履ける状況になってきた。だからといってリヴゴーシュ全盛の頃みたいな恰好はしないが、少しだけルード、みたいな恰好をしてもよいような気がしてきている。

まあ気がしているだけで、そう簡単に社会に括り付けられている軛からは逃れようがないことはわかっているのだが。
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