眠り兵のシャツ。

ササフラスのパタンナーがやっているシャツ専業ブランド。

ドレスシャツ専業ブランドはイタリアをはじめ無数にある。ただ、モノづくりが国単位でブランド化され、且つOEMありきでのブランドが成り立つ土壌が出来ているゆえに無数にあるともいえる。日本のシャツ工場で、ドレスシャツのブランド化まで上手に出来ているのはそれほどはない。

このサニーエレメントはシャツ専業ブランドだが一風変わっている。タグにはシングルニードルの文字。アメリカのシャツはタグに「古き良きシングルニードル縫製だぜ!」みたいな事が書いてあることがあるので、そのオマージュかもしれない。つまりアメカジ寄りのシャツだ。LOFTMANで売ってるのだからそりゃそうだろうけど。勝手な思い込みだが関西にルーツがあるブランドはアメカジ系が多いと思っている。

オートミールカラーが今風である。前立ては幅広でそれこそミリタリービンテージっぽい。割と襟型がすまし顔なのが良い。

このシャツはスリーピングシャツというのだが、シャツ好き古着好きは「あのロシアの?」となる位、スリーピングシャツと言えばロシア兵の寝巻である。70’s-80’sのソ連軍のパジャマ。ノーカラー、ヘンリーネックで袖がやや短い白いシャツのものが大半。まあ全く似てないんだけど、恐らくイメージソースとしての引用なんだろう。

ヨークが無い代わりにプリーツ。折りたたまれた後ろ身頃の生地分量が下に落ちるに従い、ふんわりと裾まで広がるラインになる。
ドロップ。

横から見ると、背中が人間の丸みに沿わずに、外側に弧が振れて落ちるように線が描かれる。これは後ろ身頃中央に生地を畳み込むとそうなる。シャツのオーダーで何着か実験したが、ある程度しっかりした生地とこの仕様特有のシルエットだ。

ゆったりとしたシルエットでオーバーサイズに作るのは流行っているが、生地を豊富に取ってAラインを作り、腕も動かしやすい工夫がされている。これ以外のスリーピングシャツも、割と厚めの生地のものが多いため、緊張感を与えるシャツではなく、リラックスしたシーンでのシャツをイメージしているのだろう。ただ、それほどオーバーな大きさを感じず、襟がすました顔しているのもあり、野暮ったくは見えずにあくまでも端正だ。

商談からハイキングまでいつでも使えるシャツ好きのためのシャツだぜ、とある。元ネタがあるんだろうか。最後は座標かな?

パタンナーがトップに立つブランドというのは、個人的には興味深いものが多い。なぜだろう。単にパターンが凝っている為に研究しがいがあるというのもある。が、物体としての服を知り尽くした人間故に、副資材に配慮したり、細部の工夫を欠かすことが出来ないのだろうか、確かに「服としての質」が良い印象がある。いや、何をもって「良い」とするのかイマイチうまく説明出来ていないので、ただ単に私が好きなのだと思う。この辺を深く考えていくと結局は言葉を尽くして語る事ができなくなり、「うるせえな、”良い”以外に無いんだよ」という事になるため、あまり踏み込みたくない。服に限らず言葉を尽くせば尽くす程、陳腐になるのは避けられない。価値の適切な表現から遠ざかっている気がするのだ。

袖裏三角マチ。目的はクライミングパンツのガゼットクロッチのような可動性の向上だろうと思う。ピボットスリーブではないので上下ではなく横の動きを意識しているのだろうか。
厚めの生地をしっかり押さえる縫製幅は短く真面目である。
やや大ぶりなボタンの側面には”sunny element”と刻印。
当然のごとく根巻きされており頑強な印象。
あまり他にはない中厚シルク混コットン。

このブランド、誰かが「割と人気」みたいな事を言っていた気がするが、わからんでもない。ちょっとひねりがきいたブランド、という所よりももう一歩凝っている気がする。パークシャツというアイテムもあるが、必見である。ドルマンかと思いきやバイアススプリット…?えっ…?という袖のパターンで面白かった。

そこに古着好きにも響くようなディティールをふんだんに盛り込み、しかも古臭くならないシルエット、生地選びも効いている。まあ洒落た作り手なんだろうと思う。欧米の一辺倒な”シャツ専業”連中には負けないで欲しい。