「私が、猫を飼う。熱望はしなくても、いずれやらなければいけないことのように思っていた。作家やエッセイストが猫について書いた文章を読むたびに、猫を愛さない人は本に関わる資格がないような、人である資格すらないような引け目を感じた。」

宇田智子”市場のことば、本の声”

着丈を足して長すぎて後悔している

「あれ、見た?」「見た見た、謎だよね。なんなんだろうね」というはじまりだったように思う。企画も縫製も接客も一人でやってるらしいよ。あっ、用賀じゃん。荒々しい職人系の人ではなさそうだな。行ってみる?えっ、バッグ買ったの?判断早くない?おう、これか、あー、なんか生地好きそうな人っぽいな。行くか。

衒いのない素の形。シンプルっていうより”素”だと思う

カスタマージャーニーなんてわからないもの。買うわけないだろと思ってたものが、気付けば手元にあったりする。イイ感じの店に入って、おれはズボンを着に行ったと思ったらいつのまにかシャツを買っていた、な…何を言っているのかわからねーと思うがおれも何をされたのかわからなかった、みたいなことがよくある時点で、自分の購買意欲が信用ならない事は自覚があるつもりではいるけども。

バルカラーっていうよりステンカラーって印象を持っている
ラグランの一枚袖で、身頃も袖もたっぷり

というわけでユニセックスのオーダーコートを主軸とする日本のブランド、yo asaのラグランコート。

このブログ、コートについてあんま書いてないんですよ。根暗で格好つけたがりの人間はコート好きじゃないですか。なのに書いたのは規格外の壮絶なコートビンテージ生地使った流しの玄人のビスポークコートっていう、まず手に入らないものばかり。根暗でえーかっこしーの服のブログ書くならコートを書かねばライセンスが失われる。だから比較的安く、男女誰でもオーダーできて、手に入りやすいコートについて書く。

でもコートは詳しくないけれど、たぶんこれってウンチク好きな服オタの好きないわゆる「コート」じゃないのでは。まあ、こまけえこたあいいんだよ。

パターンオーダーなのだが、なにせ、すべてアトリエメイド。おひとりでやっているのでオーダーに対する柔軟性が高い。オプションでベントを入れる方もいるらしい。割と選択肢がある状態だと、決めていくのが難しい。オーダーの時にアイテムやディティール選びでWorkin’ Hard、生地を選んでWorkin’ Hard。生地、異常な量がある上に現物も多いので一仕事。「ちょっと休憩さしてください」と言われるくらい大変。これ、みんな選ぶの大変では。みんなほんまよーやるわ、めっちゃがんばっとるわ。わしかて負けんよーにな、ひそかに何かと努めるわ。

襟裏ボタン&ボタンホールは「よろしく頼む」と言ったら仕込んでくれた
これがやりたいが為

いろいろと検討するとつけ足したりする一方、諸々の仕様を削ったりする。なんも無くたっていいや、結果なんぞかったりーわ。というか良い生地で一点突破する方がかっこいいと思ってしまう。

基本パターンはスタンダードとビッグのどちらか。身幅はそのままで、袖と着丈と襟の長さ、およびポケットやボタン、ベルト位置・有無を決定する。なお、ベストとかピーコートっぽいのもあった。某アトリエ製の靴のオーダーも出来る状態だったので、色々挑戦しているのだろう。

生地、何を選んだか記憶がない。w.billの500g後半だった気がする。パターンは気取った感じがなく、無所属感がある

意外だったのが裏地。キュプラとかではなく、ダブルフェイスにしており肌触りの良いウールメルトンを使っている。合繊系と比べ多少の引っかかりを感じはするも、気になるレベルではないし、これはこれで暖かい。

改めてのオーダーの流れは、アポイントメント取って用賀のアトリエに訪問し、サンプルに袖を通してデザインの方向性を決定。続いてバンチや置き生地含む膨大な量の生地サンプルから生地を選び、ディテールの仕様やボタン・ポケット・ベルト位置を調整して決済。納期は2、3か月との事だった。11月後半オーダーで2月後半に届いたので頑張っていらっしゃる。そして安い。

裏地は葛利だったか、気持ちの良いメルトン。なおマガジンポケットのノリでA4が入るデカいポケットを付けてもらった

なお、基本的にブランドとして展開はユニセックスである。これに加えテイストに少しドメスティックブランドな雰囲気。つまり、シュッとして色気を感じさせるイタリア風でもないし、構築的で威厳を誇示する英国風でもない。もちろんフランス風(フランス風ってなんだ?ワーク?色とか?)でもない。ブランド名が欧州的とも日本的とも言えないアノニマスな雰囲気なのも、そういう意図があるのかもしれない。ブランドタグもないし。でも、確実に古くない。今はビンテージの一枚袖が流行っているが、良質な生地を豊富に選べカスタマイズできることもあり、ビンテージのコートとはまた違う。このテイストを支持する若い世代も少なくないはず。このコートはたゆむ質量で空気を孕み、内外を曖昧に仕切る。このバランスは独特であるように感じる。それが上記で言った、いわゆる(従来の)「コート」ではない、という事である。

まあサンプルがたくさんあるので、見に行くのが早いと思う。

襟も少し伸ばした気がする