ボトムスの話。
いくつかの工場でスラックスを作ったのだが、同じ寸法は当然、同じパターンでも仕上がりが違う。各工程を担当する人の縫い方の違いの集積なのか、そもそもラインの組み方が違うのか。詳細はわからないが、機械が服を作っているわけではなく、一本のパンツの裏で手を動かしている職人が何人もいる、という事がよくわかる。
以前アルデックスのスーツの話はした。トラウザーの持ち出しの注文の受け方が柔軟だったので、これはと思い、最近は実験を数年にわたり続けている。すいません。「本当にお前はさ…」と例の人に言われたりした。でも女遊びとは違って倫理的な遊びじゃないですか。誰も迷惑しな…ごめん。ごめんなさい店長。
スラックスというものは難しい。クリースラインがどう落ちるか、尻から裾までの線は綺麗か、小股のアウトラインは綺麗に落ちているか、さらにそれらを満たしたうえで動きやすいか。基本的に動きやすさなどを重視すると立ち姿の綺麗さが削られる。クセ取りにも限界がある。しかしここは割とバランスが取れたトラウザーを作ってくれる。
ベルトレスのトラウザーをジャケパンで合わせるのが最近苦手なので、ベルトループありの普通のトラウザー。遠目にはダークグレー。ツイードのパンツって基本的に長く履いてナンボのものなのだが、これは割と完成時からいい雰囲気を持っている。
一方こちらはベルトレス。ブリットロックのバンドマンのパンツを目指し、昔好きだった青山のジーンズブランドのパイプドステムの形をベースにシングル裾。最初はジャービスコッカ―が履いてそうなものを目指したが、結局消臭してしまった。
アルデックスでパンツの実験をする目的は複数の完成型を作ることだった。試行錯誤の末わかったのは、マスターパターンを作っても、生地をはじめ他の要素によって適切な寸法が異なるため、修正が必要で、そこに経験の差が表れるということ。当たり前の話し!そうでなきゃテーラーはいらない。これはスーツでもジャケットでも同じで、だからこそ生地を変えて同寸で作っても思った通りにならない、という事が起こりうる。
ただ、安心して欲しい。ビスポークだともっと手での仕事が増え更に一人が自らの精神を糧に作るので、ブレが増える。そのため半分以上は失敗する。フランコミヌッチ氏のクローゼットも未着用のビスポークで一杯だった。それと比べれば、工場生産のアルデックスは安定してゴールを狙える。だからビスポークなんてものに足を踏み入れず、アルデックスで何かを作る方がおすすめである。
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