七分仕立てのビスポークジャケット(Salone PARTENZA)

その男は名を岩元 孝道という。

御幸毛織の展開するサローネ・パルテンツァというオーダースーツサロンの大阪店店長。日本で学び、日本で技術を研鑽したアルチザン。彼が御幸毛織の縫製工場と共同作業で受注しているのが今回の「七分仕立て」のビスポークジャケットとなる。

ビスポークスーツの相場は東京だと30万~50万円前後。チッチオで58万~。フミヤヒラノで40万~。batakで35万~。海外ではナポリで30万円前後だが、これは安い方でサヴィルロウになると70万を超える。ブリオーニやキートンも同レベルだ。いずれも、「ビスポーク」とか「フルオーダー」と呼ばれるもので、型紙を個人の為に作り、仮縫いや中縫いを経て補正をするものとなる。手縫いの割合がどうとか、芯を手作りしているか等は作り手によって異なるため一概に言えない。

型紙ありきのMTM(メイドトゥメジャー)はまた異なるし、イージーオーダーとかパターンオーダーもまた異なる。これらは基本的には手縫いの要素は少ない。青山のSharonのように手縫いのパターンオーダー(25万~)を手掛けるところもあるにはあるが、少ない。

仮縫い最低1回のジャケットで12万5千円~。2021年1月に始動したこの商品の裾値だ。基本的な仕様は変更できないが、補正はある。MTMと考えて良いが、手縫いでしか作れない表情は色濃く出ている。

手縫いだから、手付けだからってなんなん?という話になるが、見る人が見ればわかる。フラワーホール、襟のステッチの印影、ラペルロールとか、肩ののぼり具合、フロントへの曲線の流れ方、色々とある。それは見る人さまざまの意見があるだろう。ただ、今回の岩元氏のジャケットを見て声を掛けてくる人は100%「ビスポークですね、どこのですか?」と言ってくる。ビスポークを体験したい、けど高い、という人にエントリーとして最も適しているのは私はこの七分仕立てだと思う。

生地はスペンスブライソンのトロピカル。またかよ

段帰り3釦で、第2釦位置は私の場合、シャツの第5釦と臍の間くらいに来る。釦位置やゴージライン等が低く、重心が低い。加えて強めのなで肩で、とてもリラックスした見た目になっている。

ゴージラインは曲線を描き腕の根本へと向かう。
職人間でよく話題になる縦横どっちにヒダを入れるか論争、岩元氏は縦。
肩はパッド無しで袖高。この部分は全て手縫い。

肩の仕上げは袖高にした。個人的な好みでは袖高の方がしっくりくる。

着心地はというと、今回は「肩回りはフィットし、胸周りはゆったりと」指定したが、その通りで申し分ない。全然締め付けが無いのに全くブカブカせず、泳がない。しっかり首肩にかけバランスよく荷重がかかり、重くない。

私はわざわざ日に当てて縫い目を確認する嫌な趣味を持っている

個人的にはスタイルが好みである事もあり、さらに着ていて楽なのでついつい手が伸びる一着となり、かなり満足している。

2着目。身頃高にした。

2着目のジャケットは冬用でフィットするよう作ったのだが、生地も相まってサクサクっとしてキュッとしまる感じ。つまりはめそ。これはデニムと良く合うので冬場にタートルネックニット等と合わせている。

パンツは同じ生地でパターンオーダーライン

一応、スーツにしたかったのでセットアップのパンツも工場縫製ラインで作った。こちらは今回の話の埒外なので触れない。

また最も大切な事を書いておかなければならない。岩元氏にオーダーする大きな利点の一つ、それは「誠実な人である」ということ。ビスポーク界隈というのは良くも悪くもクセのある人間が多い。そりゃそうだ、職人の世界なので接客業を経ておらず、手仕事で生きてきた人々が大半。口ベタだったりうまく意思疎通ができない、という事は往々にしてある。それ位で済むならまだマシな方で、傲慢にウチのハウススタイルが最高、と押し付ける人もゴマンといるし、下ネタと自慢話で7割が構成されフィッティングは適当、みたいな人もいる。

色々なテーラーをめぐったが、南さんと岩元さんは丁寧で、実直に仕事をする人だと思う(Vick Tailorの近藤さんも印象が良かったが、仕事を頼んだことがないのでなんとも言えない)。普通に服が作りたい、けどわからないし丁寧に進めたい、という人に対して誠実に対応できる事は大切な要素である。

仮縫い後、その場でほどいて縫い直し
手は割と早かった。

その場でほどいて縫い直してフィッティングする、という場も。面白い。このライブ感はあまり味わえない。僅かな修正なのに首元からの落ち方ががらりと変わる。元々大阪店の店頭のガラス張りのエリアで作業をしている事もあり、慣れているのだろうとは思うが、それにしても自分が今着ていたものを目の前で解体され、縫い直され、「ほら良くなってる」というのは、手縫いのビスポークの醍醐味を味わっている気がする。

走り出したばかりのラインなので、色々と大変な様子を聞く。特に縫製工場は属人化しているラインがどこもかしこも残っているはずなので、苦労は多いのではないだろうか。割と受注は入っているらしく、したがって近々絶対値上がりする、というか値上がりしないと採算が取れないはず。もう業界内では怒られてると思うので、この後どうなっていくのかを注視している。

ちなみに岩元氏は「背広屋 岩元」でビスポークを請けており、これは御幸毛織内のプロジェクトなのでラベルは「サローネ・パルテンツァ」となる。会社との共同作業だからこそ出来る事で、うまく成立するようになってほしい。

← 過去の投稿へ

次の投稿へ →

2件のコメント

  1. kiki様
    ありがとうございます。大した変化はしてませんが、気が向いたら投稿します。

  2. 気になっていたアトリエが連続で紹介され大変参考になりました。未だわかれと言われてわからないままのズブ素人ですが、前回のリネンの経年変化も拝見したいので、気が向いたら投稿をお願いします。

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です

このサイトはスパムを低減するために Akismet を使っています。コメントデータの処理方法の詳細はこちらをご覧ください