If in doubt, anything looks good with a white shirt.
迷うなら、白シャツを選べばいいのよ。
ヴィクトリア・ベッカム
白シャツ。
七難隠すと言われる定番。それ故に難しい。
カジュアルな白シャツは様々に着た。オックスフォードボタンダウンの定番として米国ブルックスブラザーズ、日本のScye basic、ブロードではモード畑代表のギャルソンシャツフォーエバー、コンサバ畑の代表マーガレットハウエル、新進気鋭の定番サンリミット。もちろん無印、ユニクロ、GMSのPBも履修し、コアな所ではマイヨやA&S、choyaやANSNAMを経て、グッチやジバンシーなどのハイブランドの面々、その他諸々の白シャツを着てきた。
どうやって自分が満足できるものを作れるのか…と色々と考えた。そうすると実際に作らずにはいられなくないので、試行錯誤する。そうして出来た、普通そうで普通ではない少し普通のシャツ。
ギャザーはいやらし過ぎない程よい塩梅で指定した。そういう曖昧な依頼でも南さんは会話で程度をくみ取ってくれるのでありがたい。
ポケットの形を古着から引用し、丸みを持った形にする。加えてカフのカーブも大丸にして統一感を出した。
運針はドレスシャツ並。これはビスポークだから出来ることだ。「ドレス並みの運針でカジュアルアイテムを縫う」というアピールは最近よく目にする。荒ったく縫うよりも細かいピッチの方が良い、これは私も異論がない。縫った事もある身としては、細かいピッチで綺麗に縫えるだけの設備と技術が備わっているなら、使うに越したことはないと思う。ただ襟のステッチは間をあけ、パッカリングがある程度出る余地を残す。芯地はあくまでもリラックスを目指し、共生地を一枚仕込んでもらった。
今回は5釦のシャツ、という実験が主な目的だった。半袖のものなどは見かける事もあるが、5釦はそれこそ年代物の古着などで見る程度。現在は6か7がメイン。特にカジュアルは6釦が多い。
4釦だとどうなるか。これは既存のシャツ釦の大きさでは釦間の距離とのバランスが取れないように感じる。釦の色を変えたり大きさを変えたりすれば逆にポイントになって良いのかもしれないが、シンプルに目障りで無粋である。8釦か9釦も検討したが、こちらは一方でアルチザンに依ってしまい、普通の枠組みから外れる。
5。五指の5、五体の5、五行の5だ。基本的な概念に思える。
生地。よく英語圏では「crisp」という形容をシャツに用いるが、私はそれに対し新品の白スニーカーのような眩しい印象を持っており、今回その要素は入れていない。ベースの考えは物資が無く薄暗い時代。ならばとイギリス産の80年の古生地を探してきて使った。クオリティは良くはない。イギリス産生地は今までいくつか見てきたが、イタリア製には到底かなわない。だけれどもこの当時のイギリスだけの、いなたい風合がある。
フィットは細くも太くもない、曖昧な太さ。つまり”普通”。羽織りにもなれるしインナーにもなれる。でもポケットを付けちゃったもんだから、インナーにすると違和感がある…ような気がするが、襟型はインナーとしても可となる線を維持している。
万能というアイテムではないし、パワーのあるアイテムでもない。何にもなり切れないシャツだ。でもまあ私が中途半端な人間なので、これくらいがちょうど良い気もする。
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