シャツNo.130 YAMAGAMI SHIRT 山神シャツ 前篇

今年最後のシャツはこちら。
満を持して。

落合正勝は、FRAYのシャツに触れたことによりオーダーシャツ一辺倒から既製品シャツへと戻った。
それはFRAYのよく研究された仕立て・ディティールが当時のオーダーシャツの仕立てを凌駕していたことによる。
しかしナポリで学んだアルチザンが店舗にいる現代のオーダー事情は異なっている。
日本にも優れたカミチェリアがいるのである。
山神正則氏。
日本のカミチェリアとして、現在ではストラスブルゴ青山の３階にあるアルチザンテーラーコーナーの
ハウステイラーズラボでシャツ部門を担当している。
日本でカミチェリアと言ったら、柳下さんや南さんよりも前に個人的には山神さんに行かねばと思っていた。
山神さんは結構ファッションスナップで見かけたりする位の洒落者。
長身痩躯なので、気胸になってないだろうか大丈夫だろうか、うーん謎の共感が持てる。
オーダーは昨年の冬、ストラスブルゴ丸の内で。
今年の3月、青山のストラスブルゴのコーナーがオープンした直後にそちらで受取となった。
採寸は20ヶ所くらいだろうか、採寸自体がダイナミックで見ていて楽しい。
手はかなり冷えており（同じ末端冷え症なんだろうか）、謎の共感が持てた。
採寸しながらも彼が語る話はぶっ飛んでいる。
「おじいちゃんがいつもシャツ着てて、おじいちゃんっ子だったもんでシャツ好きになったんすよ。コットン100が信条で。学生のときはポリ100のシャツが制服でしたけど、先生に綿100のシャツを咎められて『ポリ100は火事の時に皮膚にはりつきます。しかし綿なら炭になる。ポリの方が遥かに危険ですし、安全性の面からも綿着るべきですよね』とかいって論破してました」
「丸縫いでやるなら、女性にしかやらせません。それも子供を産んで一回育てあげることのできた女性ですね。シャツは子供と同様だと私は考えており、育児を経験した女性ならその優しさでシャツを縫い上げることができるはずなんです。丁寧な柔らかさが大事ですから。」
「石けんも一度突き詰めました。襟裏の汚れに最も効率よく作用するのはなんなのかと、汚れの成分から調べてみて辿り着いたのは椿油でしたね。業務用を取り寄せてオリジナルの洗濯石鹸も作ってみたんですけど、値段がとんでもなくなって売ることはできませんでしたよ。」
いやーぶっ飛んでるなこの人最高だ、謎の共感が持てる。

特徴
・襟型はセミワイドっぽいのが15種類位あって、微妙な差異ながらもどれも唸るほどの美しさ。
・肩はがっつり入内側に入る。マトッツォ、というかナポリタイプか。丸みが出るのでこの辺は好みが分かれる。
・胴はヌード+15cmくらいでとっているが、背中の運動量の割にウエストへのフィットが良い。
・釦の根巻の長さが全て違い、どれも理由がある。
とにかくここのシャツを試着して一番驚いたのは、動作へのフィット感。
直立の状態から袖を前に上げた時、一切カフがずり上がってこないのには驚いた。
勿論首を回してもしっかりついてくる。
優れたナポリのジャケットは電車内でつり革を掴んでも袖が上がらないとか、都市伝説だと思っているのだけれど、そうでもないのかもしれない。
確かkitonのフィッターをやっていたこともあるはずなので、山神さんはその辺抜かりないはずだ。
丸縫いでは和裁で学んだキセを入れて至高の一着を作るらしい、なんか日本画の要素を忍び込ませる村上隆みたい。
価格は33,000円～だが、最低価格のコットンで作ってこれ、とか一体どういうことなんだろう、安すぎる。
マトッツォ、フライとか、ボレッリ、バルバ、フィナモレ、名だたるイタリアシャツが今いくらか知ってるでしょう？
ここ、33,000円ですよ？
前なんか3万切ってたという異常価格。
33,000円でこの採寸体験、山神さんとの対話、そしてすさまじいクオリティのシャツ、
これが体感できるならどう考えても安すぎる。
毎年一着ずつ作ろうかなとか思い始めている。
詳しい紹介は次回にする。