no.197 FRAY フライのシャツ

究極に無難な白いシャツを紹介する。FRAYのシャツといえばイタリアシャツの王道。シャツ中の定番シャツ。その定番ブランドにあってこのシャツは、襟型・生地・色も定番の型である。

ドレススタイルにおいて最も汎用性が高く、誰のワードローブにも一着ある白のセミワイド。いわば白飯だが、イタリア最高峰のFRAYの白シャツともなれば、最高級特A魚沼コシヒカリをパナソニックのWおどり炊きで仕上げた白飯級。

白シャツはコーディネートの要だ。 カール大帝も「白シャツはすべての基本。他はあとからついてくる」と言っている。清潔な白シャツを着ている人を誰が不快だと思うだろうか。自分のブランドで好き放題やっているベッカムの妻ヴィクトリアも「白シャツを着れば全てうまくいく」とまで言う。そりゃあんたの旦那は新品しか着ないからね。

FRAYの何が良いかはどこにでも書いてあるので今更述べるまでもない。ストライプの幅違いで揃えたり、別ラインのpegasoも着倒したりと、それ位には私も好きだ。何が良いか端的に言えば「上質な生地を綺麗な形に切り精緻なピッチでシンプルに縫う事から現れる、端正さ」が良い。スーツ・ジャケットを同じくマシンメイドで作るパドヴァのBelvestと比較する人もいるが、シャツと言うシンプルなアイテムの性格もあり全く別モノだと私は思う。

ナポリのシャツが良いとは世間で良く言われることだが、FRAYはナポリのシャツとは違う。アームホールからは「動きを妨げない」という思想を感じ取れるが、「柔らかい印象か」といわれると異なる。元よりスーツスタイルはシャープな印象を目指したもので、ドレス寄りの装いを「カッチリ」と表現するように、本来のスーツスタイルでは曲線は控えめ、最も目につくラペルのカットは控えめな曲線で線対称。そこに合うようにシャツを作るのであれば、直線的で綺麗な線が求められる。統御されたストイックな線。

河毛俊作は、著書の中において「白いシャツが全く似合わない男は存在しない」と述べる。概ね同意する(ただ、そのあとに彼が提案するのはオックスフォードのボタンダウンだ)。

白シャツは男性の服のうち、究極の無難な服の一つである。しかもその中でポプリン生地とくればさらに無難。それも、最も無難なセミワイドカラーだ。

白無地以外はどうだろうか。堅めの業界であれば、はっきりしたチェックやストライプ、濃色は敬遠されるだろう。控えめなピンストライプやマイクロチェックは許されるとか。私は数多の友人に聞いてきた「シャツが与える印象」をメモしている。それによれば「ストライプは縁を切るという印象があるので普通はビジネスで着ないでしょ」とスーツ及びシャツでストライプを敬遠する九州の一派がいた。また京都出身のOLが「地味なチェックで遊び人アピールする人が嫌い」と言い放ったのが記録として残っている。さらに昔の上司が私の後輩に「薄青味があるシャツは自身無く見られるので一切NG」と言った。ちなみに昔のリクナビの就活生向けの記事に「金融業界の面接では白シャツ以外は不可」とあった。白は、それが汚れなくシワなく保たれていれば大半の人に何か言われることは無い。

白無地の中にも、最近はシャドーチェックやらヘリンボーンやらの織柄があるものが最近は売られている。無難に近いが、潔くない。無地のトップスでアイデンティティに危機を感じ謎のワンポイントで差別化を図ろうとする心理と同じだろうか。その辺りを突いてくるスーツ警察もいる。拿捕されたくなければポプリン、ブロード、次点でピンオックスかツイルが無難だ。

襟型。レギュラーやカッタウェイはトレンドに翻弄され古臭いと言われる恐れが僅かながらある。ボタンダウンは「スーツにそれは適さない」「カジュアルだ」と面倒な人間に言われる恐れがある。ラウンドカラーは印象が強すぎる。マイターカラーやそのほか飛び道具的な襟型は論外すぎて私には最近わかってて敢えてやってる人にしか見えない。

当然、ボタンやボタンホールの色を変える必要は皆無。前立てはもちろん襟元の第一ボタンや、カフを留めるボタンの数を増やしたり隠したりする必要もない。

ブランドがどうのこうの言う連中(クラシコ界隈は多く生息する)にも、このFRAYという記号は有効だ。まず服飾評論家、故・落合正勝が「最高」と言っている。クラシコ・イタリアがどうのと語りたがる人間にはFRAYとアットリーニが特効薬。

また、手縫いを殊更に主張していない。手縫いは厄介な話題で、手縫いを「野暮」として嫌う人間がいる。また、手縫いとは?という問で混乱に陥れてくる者もいる。手縫いが入ってなきゃ、という宗派の人間は上記のクラシコ・イタリアを語りたがる連中と被っている事が多いので、FRAYという権威でこなせる。

余談だが一部の「シャツは下着だからインナーを着てはいけない」とか言う服好き出羽守や原理主義者は、やれ「イタリアで白いシャツを着ていくと『また結婚式?』と囃される」とか「イギリスでダブルカフじゃないと『今日はオフなのかい?』と皮肉られる」とか言ってくるけど、ここは日本。小津安二郎の国。遠山周平も「小津安二郎の映画に登場する笠智衆のダークスーツに白いシャツというストイックなルックは『陰翳礼讃』で表された美意識に通じるものがある」と語っている。ので無視して構わない。

くどくどと細かいことを書いたが、述べてきたようにこのシャツは99.99%、誰からも文句を言われない究極に無難なシャツである。そしてその分、目立たない。褒められる事も少ないと思う。だけれど、絶対の安心が買える。

こう考えると、7万のシャツも買えるような気がしませんか。

…しませんか?

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4件のコメント

  1. リラクス好き様
    首裏はこまめに石鹸(ガルザイフェかウタマロ)で洗っています。
    ベビーパウダーを着用前に首に塗る方もいらっしゃるそうですが、面倒なので私はしないですね。

    フランクリーダーのベッドリネンはたぶん買いません。
    山内は良いですよね。欲しい部類には入っていますが、悩ましいです。

  2. リラクスが好きな人

    何回か前の記事で触発され、confectの服を7着購入しました。
    それはさておき
    貴重な白シャツの数々、首裏の黄ばみ対策やケアはどのようにされておりますか?

    また、白シャツというわけではありませんが、その昔の記事でも書かれていたフランクリーダーのベッドリネンシャツや、丁寧な縫製に定評のある山内のシャツなどの記事も、私自身愛用中であるため、いつ出るかなと楽しみにしております。

  3. fooさま
    ありがとうございます。精進します。

  4. ふふふ、素敵な記事をありがとうございます。
    過去のも楽しく読ませていただいています。
    どうぞこれからも機知の富んだ記述をお願いします。

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