モーリーンは彼女の作る服に決してブランドのラベルを縫いつけない。そのほうが「ほっとする」から、と彼女は言う。

ランウェイではなく『生活のための服』を作る3人のデザイナー
ボロボロに見えるのは気のせいです

店主、モーリーン・ドハーティ。2022年没。享年71歳。ジグソーやイッセイミヤケの仕事をしていた彼女は1994年、ロンドンの高級住宅街、ベルグラビアの乳製品店を改築してセレクトショップのEggを作った。そこで販売されるものは、手で吹いて作ったガラス、一点ものの陶器、作家ものオブジェなどにあわせてシンプルな服がある。もちろんセレクトショップではあるので、CASEY VIDALENCやSARA LANZIなどのブランドもある。ARTS&SCIENCEも扱っていたことがあった。むしろARTS&SCIENCEがEggを参考にしていたのでは、とも思う。

この店、顧客にはティルダ・スウィントン様などが名を連ねているらしく、あの人にこういうシンプル、いやプリミティブな服着せたら人間を超越した何かになるのでは。大天使ガブリエルをコンスタンティンで演じた際のあの段違いな美を作れる人なわけだし、人型オーパーツくらいにはなりそう。

紐でしばるタイプのパンツ。ShunXXLの呪いは続いており、局部乾燥パンツで述べた「なぜか気になるアイツ」的な展開である
紐もしっかりとしており、縛りがいがある。縛る時に「ギュッ」とコシのある手ごたえなのが小気味良い。讃岐うどんだな
裾は折り返して履くケースがほとんど。提案もそうだからなのか、切りっぱなしである

このパンツは”ユニフォームトラウザー”と説明されているが、Eggでは定番でずっと販売されている。私が初めてEggを知った頃からある。Eggはコムデギャルソンでセレクトされているのを目にするが、ギャルソンに並んでいるのは見たことがない(ワンピース系が多い気がする)。ただセールにはかかる。

Eggの服は天然繊維で出来ている。更に比較的耐久性が高い生地を使い、褪せた様な加工をしたものもある。ほとんどはインド製。このパンツは割としっかりした中厚のデニムみたいな生地で、かといってガサついているわけでもなく、適度にドライで、適度に硬く、丁度良い。そしてユニセックス。

ボタンフライ。このパンツの唯一嫌いな点。ボタンフライが嫌いなのもあるが、これはとにかく硬い。生地のせいなのかボタンホールが適当だからなのか
こういうシルエット。ごく微妙に裾がすぼまっており、生地の強さも相まってロールアップ時にサクっと快適。本家サイトより

Eggの服はどれをとってもシルエットは基本的にボディに沿わず、ボリュームがあるシルエットであるものが多い。長く着て継ぐことを視野に入れている事もあり、生地は耐久性があるものを選定する。サイトを見るとわかるように染色をオーダーできたりする。

そして高い。異常に高い。まあ高級住宅街だから、と言ってしまえばそれまでだが、高い。インド製が多くコットンも別にすごく良いものを使っているわけではないのでは・・・?とか思ってしまうが、だが着てみてわかるその秀逸さだった。なんか知らんが、丁度いい。今の所、予想より快適だししっかりした生地で扱いやすい。適当に裾をまくってそれなりに上品に見える。なんにでも合う。

フロントは私が好きなフォワードセットポケットで縁もしっかり目に補強してあり快適
バックポケットはシンプルな四角形に見えて、実は位置が独特。見てわかる通り、ウエスマンに近い、つまりかなり高い位置に開口部がある。これが割と使いやすかった

冒頭に書いたようにモーリーン氏は逝去されてしまったが、数々の定番はまだ販売されており、店も継続されるようだ。値段も高いし実際に着てなんぼなものであること、また日本には(よく似通った)ARTS&SCIENCEがあるのでわざわざEggを買うのもどうだろうとは思うが、イギリスに行かれた際には是非店頭で見てみて欲しいブランドの一つである。

これがEggのタグ。ぽつんとドットの刺繍が一つ。粋である