靴は風景を湛える―「紳士靴九話」

紳士靴について書かれた書籍である、「紳士靴九話」。

書いたのは紳士靴の職人たる友人。

とあるマーケットで販売したらしい。

小ぶりなサイズで30ページ程の簡素でまとまった本。

SNSの発展で長い文章が好まれなくなった昨今、本もアナログの利点を保ちながらコンパクトになるために、文鳥文庫や同人誌などの需要が増えるのかもしれない。

目次では大きく既製靴と注文靴に大きく別れている。

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既製ではブランドは多岐にわたる。

J.M.WESTONのストレートチップ300、カントリージェンツシリーズ、ビートルズが履いていたサイドゴアブーツの705、

今は亡きイタリアの名靴タニノクリスチー、夏の靴パラブーツのバースなど。

私もつい最近705を手に入れたばかりであり、読んでいて共感できる部分が多い。

 

特に既成靴で特徴的なのは「その靴を履く時に想定されたシーン」を込みで描かれている事である。

苔や落ち葉で満たされた豊かな森、背筋を伸ばして歩く秋の骨董通り、荒くれ者が踏みしめる船の甲板などなど、その靴を履いた時に広がる風景があるのだ、その靴のために用意された舞台があり、その靴を生み出した大地があるのだ、ということを再認識させてくれる。

 

一方、注文靴においては個人のストーリーが語られている。

注文していく(文字通りビスポークの)過程が記されており、著者個人の尖ったセンスが見えてくる。

こちらの方はよりプライベートなムードが漂っており、沼とも言える深い世界の底をちらと見るようでもあるのだが、特に著者のかなり挑戦的なチョイスが面白く、実際に私も見たことがあるてつじ屋の靴などは、赤く鋭く尖っておりとても「本人」らしいなと思うものだった。

 

以前にも書いたが、鞄が欲しいという名著がある。

万年筆画家が自分の鞄への欲望を細かく書いていったものである。

これを読んでいると本当に鞄が欲しくなってくるので困るのだが、今回のこの「紳士靴九話」も魔力があり、人間の壊れた欲望を刺激する。

既に手に入ってしまったものに対しての語りだからなのか、冷静な視点が垣間見えるので抑制されたような筆致なのだが、もうすでにパラブーツのバースなんかプロパーで買って良いんじゃないか・・・とすら思わされており(いや実際プロパーで買ってもその分以上に仕事する優秀な一足なんだけど)、ショップで鉢合わせしないことを祈っている次第である。

なお、当方が発行するシャツのフリーペーパー「煙かシャツか食い物」はAdobeの使用方法に問題があり0号で頓挫しました。

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2件のコメント

  1. フランスよりそんな要望があるとは・・・笑
    いつかAdobeが使えるようになったらまた再開します。

  2. シャツのフリーペーパー求ムw

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