西のシャツ屋、LES LESTON
 
オーナー・兼職人は久木元氏。
 
彼がどのように、なぜに凄いのか。それを私は知らなかった。ただシャツのオーダーをしていく先々、様々な所でその名が出る。
 
「レスレストンでもうシャツは作られましたか」
 
露出はほとんどない。情報が充分にない。得体のしれないそのシャツメーカーで作ってみたいと思わされたのはある一人の服屋の一言。
 
「ありえない袖を見た」
 
またあるカミチェリアはこう言った。
 
「ワークシャツなのにシャツのパーツの縫いピッチが箇所によりすべて異なっておりしかもワークシャツにあらぬ精緻さだった」
 
当時は興味だけが湧く一方であった。
 
電話しオーダーしてみようと思うものの場所は大阪。しかもタイユアタイではないか。今は違うが、一時期タイユアタイのシャツを作っていたのはLESLESTONだったようだ。お店を持ってるのはレスレストンで、タイユアタイに貸していたとのこと…ほうほう。
 
ところが今やタイユアタイ、社長の交代もあり大阪が閉店。取引が終わり、東京のトランクショーの機会ももうないと言う。チッチョなら可能ですよ・・・と言われるも上木さんのところへ行ってシャツだけオーダーするのは流石に気が引けるし、そもそも当人に合わずしてオーダーの意味があるのか。もうこれは大阪に行くしかないよねと考え中乃島へ上陸。
 
店内はポプリの香りが漂い、完全にエロい。
 
端正な顔のシャツが並ぶ。
 
この写真は結構前で、タイユアタイが撤退した当時だったので今はもっと変わっていると思う。
 
アトリエから久木元氏が出てきた。
フランネルのチェックジャケットに、オッドベスト、ペイズリーのタイ。なのにとても抑えられて統一感のある、とんでもない大人の洒落者の恰好である。
色々と話すと当たり前だが今まで受け持ったオーダーの幅の広さ、挑戦してきたことの多さに驚く。いわゆるバナナ袖でカジュアルシャツのパターンを引いていた時期もあるらしい。
 
ただ、「とにかく高いよ」と以前から聞いていたので最低価格のものでひとまずやってみるか・・・と指定したのはGIZAコットン。
 
指定は極力なにもしない。もうそのままでお任せします、と。
出来る限り面倒な指定はするべきではない、それは粋ではない、という方だったのでそのままに任せた。
 
  
 
見事。
とにかくフィッティングが大変に良い。
よく一回の採寸でここまでのものが出来たな、と思っている。
山神シャツのように脇下がタイトなものでもなく、谷シャツ商会のようにゆったりしすぎず、近いところでは南シャツだろうか。ただ南シャツは何度も作っているからこその出来上がった最終形なので比較対象とするには難しい。
 
 
 
襟は「今は曲線より直線が好みや」とのことなので9cmの110°で依頼した。カッタウェイ過ぎないワイドカラー。台襟も先に向け曲線を描いており、タイドアップしても美しい。ちなみに写真だとわからないかもしれないが、フロントは縫い目が見えないようコンストラクションヨークだ。
羽根は中心でハギをとって正バイアスにしている。アイロン対策だろうか。
台襟は後ろ4cm・前3㎝、襟羽根ステッチは端から3mmとオーソドックス。
 ちなみに1cm当たり10針。
 
 
 
白蝶の10mm、3mm厚。根巻ありの鳥足。
カフのステッチも非常に端正だ。
 
 
 
派手なギャザーは無く、イセ込みが適度に入っている。モンテサーロほどではなく、見た目に影響が少ない限界値だろうか。
ちなみにここも袋縫いだ。ところで、フロントのコンストラクションヨークは見た目をすっきりさせるためである一方、このシャツやインディヴィジュアライズドシャツのように前後をすべてコンストラクションヨークで仕上げるのは耐久性向上のためであるとあるバイヤーから聞いたことがあるが、そういう意味でやっているのだろうか。手がかかっている。
 
それにしても、生地は安いものを使った割にとても着心地が良い。
あの僅かな採寸でここまで仕上げてくることや、相当経験を積んだであろう着こなし、強いという他ない。西のトップカミチェリアの一人だろう。Wear,Wash,Enjoyを信条としているそうだが、こういうドレスシャツを洗いざらしで着られるほどの成熟はまだ私には先である。
 
「おっさんになったらどんどん削いでまうんや」
久木元氏はディティールの遊びは極力排除する仕立てを得意とするらしい。
 
ちなみにお値段はハイクラスである。もう少し出すと山神さんで総手縫いが出来る。