シャツNo.166 solid warpのシャツ

もうなくなってしまったブランド。

というかこのブランドが出来た事すら知っている人はいないのではないか。

roomsとか良く行っている人は見たかもしれない。

スキャッティオークという、伊勢丹や百貨店で良く見るであろう国産シャツブランドの社長。彼の妻が立ち上げた麻布のショップではじめた、コアな別ライン。

チェックのボタンダウンシャツ。

釦もしっかりつけてあり、縫製も精緻。

出来がいい。

 

長いロッカーループ。

これも真面目にがっしりと縫われている。

 

袖を剥いで別生地での切り替え。

あるシャツ屋はこの仕様について、前振りのセットインスリーブより工程がかなり増える割には着心地への作用は僅かであるが、良い仕様だと評していた。

私も既製で袖剥ぎを見るのは初めてだったので買ったのだが。

 

日本製のシャツ、特に老舗のシャツメーカーが作っているものはわかりやすい。

イタリアのシャツと比べて硬い。イギリスのシャツと比べて細かい。

印象の話なので具体的には言えないが、縫製の細かさや、寸分狂わず左右対称になっていたりするパターン、均一な裁断の処理、副資材の抜かりない取り付け方、素材や柄の選び方。そういう所に感じる。

イタリアは(特に南部は)柔らかい仕上げが多いので色気とか風になびく軽い感じのイメージ、柄物になると軽薄、浮気者な感じのイメージになる。イギリスのシャツは柄のセンスが奇抜だったりする割に硬い仕上げなので、そのパラドキシカルな感じで変態紳士とかエキセントリックみたいなイメージになる。

日本のシャツはなんだろう?

歌舞伎の緞帳に代表されるように、日本の色はくすんだ色が多い。それは個人的には陰翳礼讃文化があったからと思っているが、その是非は別にしてともかく日本のメーカーは地味で無難な柄を選好し、派手なものや独特なものを避ける。

その柄を使って妙に凝りまくったパターンを精緻で硬い縫製で仕上げる、というのはもう海外からすると「クレイジー」としか形容できなかったのではないか。マーケットよりも集団内部で決まったことをやり遂げるパワーに満ちた民。手を抜かずに誰が望んでいるかわからない謎の高みを全力で極めるその真面目さ。その方向を決めているのは外部に通用するロジックに基づいたものではなく、斉一性の原理が強く働くその集団の中の声が大きい誰かの気まぐれな意志なのかもしれない。

いかん仕事を思い出した。

 

ちなみに、日本のシャツは悪い、ということを言っているわけではない。

日本のシャツは良い。良いが、しっかりしているとか縫製が真面目とか、そういうつまんない謳われ方で売るしかない現状はさびしいものがある。

もっとこう千利休リスペクトでわびさびシャツとか作ろうではないか。

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3件のコメント

  1. かわふくろう様
    お返事遅くなりすみません。
    確かにだれがどうしたものとか、落語のはてなの茶碗に通ずるものを大事にしてきましたよね。
    日本のアパレル、デザイナーはいわば海外に比べてクオリティが低いというのがネックなんでしょうね。
    まあ、どのコンテクストを採用して戦うかという、アートや他の分野でも言える話なのでしょうけども。

  2. かわふくろう

    こんにちは。
    今回の記事も面白く読ませて頂きました。
    わびさびシャツいいですね。初めからほつれている、とか。ギャルソンあたりがすでにやってそうですが…。
    日本の、特にアパレルのものづくりは、ウンチクサイドに偏ってる気がします。はっきり言って実用性とは関係ないものが多いように思いますが、茶の湯の系譜ってその辺りをあえて面白がってきたようにも思います。曰く、どこの土のどこの窯だとか、誰が所有したものだとか。やってることは似てるようにも思います。
    ただ、日本美術が世界で評価されているようには、日本のアパレルが評価されているかというと、されてないですよねー。一部のストリートやモードくらいで。特に男性のクラシックな服装が、仕事用の戦闘服に特化しちゃったからですかねー。

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