発酵料理のレストランの制服。
目黒にkabiというレストランがある。
サイトに “At Kabi we focus on Japanese ingredients. But we are not a Japanese restaurant.”とある通り、和食以外の方法で日本の食の良さを伝えていく、というのがテーマだ。kabiは黴(カビ)菌を指すのだろう。
発酵食品の文化は東アジアや東南アジアに色濃く根付いている。多湿なアジアはカビが付きやすいのに対し、湿度が低いヨーロッパではカビが付きにくいため、カマンベールやブルーチーズを除き、カビを使った食品がアジアと比較して欧米には少ない。
日本は麹菌――コウジカビの恩恵を古くから享受してきた。学会に国菌と認定されるほど、麹菌は日本食を広く支えている。味噌、醤油、日本酒、味醂は全て麹があってこそできる食品だ。甘酒や塩麹なども当然そう。麹の他にも酵母菌、酢酸菌、乳酸菌、納豆菌など、菌が良い影響をもたらす「発酵」に、日本は古くから支えられてきている。味の素をはじめとする「うま味調味料」などは発酵が無ければ成り立たなかったものだ。
だからこそ、日本食は世界に比較しても独特の旨味・香味を持ち、「和食」が無形文化遺産に認められるまでになった。それを価値の中枢とし、現代の食に沿った形で伝えていく、というのは文化的にも市場的にも求められることなのだろう。
kabiの料理はいずれも非常に凝ったもので、イノベーティブ?というのだろうか。ペアリングで出される酒が美味しかった。それは後述する。
さて、ここで店員の方が着ていて気になったのがOUTILの制服だ。
nest Robeなどで取り扱いがあるので気になってはいたが、レストランの制服なんかもやっていたとは驚いた。 OUTIL (ウティ)のデザイナーは宇多悠也さん。フランスの19c~20cのワークウェアからインスパイアを受けて作っているらしい。フランスのワークウェアというと個人的にはANATOMICAをパッと思い浮かべるが、それとは違う土臭さを感じる。なんというか、民家の暗い穴倉でホコリを被っているビンテージの質実剛健な家具、というイメージ。
この制服はオンラインで販売しており、妻からプレゼントでもらった。インディゴと備長炭で染めたという色は独特で、洞窟の昏い水面がうごめくかのよう。ガサガサした生地感は、着心地が良いとは言えないが、その生地の丈夫さを知らしめてくれる。(質感はキッチンの方々が実際に着ていたものとかなり違う上にボタンが比翼で無かったりなど細部が違うので、これはレプリカだろう。あるいは洗いこむと柔らかくなるのか?)
こういう厨房着っぽいスタンドカラーシャツが好きで、一時期は渋谷の麺飯食堂なかじまのコックシャツみたいのが欲しいなと思っていた位。でも実際に着るとやっぱりイッセイミヤケかぶれの建築士くずれというか、服部幸應フォロワーというか、そういう印象を持ってしまう。
さて、肝心の料理について見ていこう。
自分でも何を言っているか全くわからない。後半に行くにつれ酔いが増して意味をなさないメモだった。料理の説明要素が多すぎて付いていくのにやっと。味は複雑不思議で奇想天外。もちろん良い意味でだ。
kabiは来年2月、新店舗「CAVEMAN」を日本橋にOPENするらしい。洞窟人…? OUTILの宇多さんは福岡で真っ暗な穴蔵のような店をやっていたらしいが、通ずるものがある。
発酵食品はまだまだ研究が進んでいない。麹菌がもたらす味噌の抗がん性や、成人病や骨の再生に納豆が効くなど、まだ未解明な部分が多い。近年進展するバイオテクノロジーの分野でも要の一つとなるのは発酵技術だろう。じめじめして薄暗い国だからこそ栄えたし、これからも栄えていくだろう発酵。そんな陰翳を私はこれからも礼讃していきたい。暗い穴蔵に眠る僅かなきらめきは、白日の下では目に見えない事もある。
コメントを残す