浅草の靴職人、吉見さんが手がけるRENDO(レンドー)。RENDOで有名なのはGB001というエプロンフロントダービーで、ウエストンのゴルフに似たもの。GB(ゲートボール)って名前付いてる位だしそりゃゴルフを意識しているよね。でも今回の靴は、RENDOのサイドエラスティックのモデル。

RENDOの靴を知ったのは大分前。靴屋にいた友人経由。

靴屋が勧める靴屋は良いに決まってる。店に伺ったら雰囲気は良い感じだし、店主の吉見さんが職人然として静かで、いつのまにか注文していた。

個人的にゴルフは持ってるしGBは不要。チャッカと迷った。

ただ、ゴルフの履き心地が良すぎて、これってリッジウェイソールの効果なのだろうか?と思っていたため、リッジウェイを短靴で試したかった。

そんな所に見たこのモデル。もっとシュッとしているドレスシューズを探していたはずなのに、岩の竜が横たわるようなそれをみて驚いてしまった。

それは靴というにはあまりにも大きすぎた
大きく
分厚く
重く
そして大雑把すぎた
それはまさに革塊だった

吉見さんもゴドーっぽさもあるような気がしないでもない。

入手した瞬間にいつ履くのこれ、となってしまったのはもうお約束というか。庭いじりが好きなお年寄りの好きそうなオーダーと言われたが、完全に都会のオフィスワーク。仕事でポエル着てたり畳でジャケット作ったりする、異常服飾老人なので許してほしい。

ベルーガという。イタリアのコンチェリア800社のベジタン型押し革。

ゴリっとストームウェルトで、コバも張り出しており且つリッジウェイソール。履き始めは痛かった。ウエストンのトリプルソールかと思うくらいソールが曲がらない。

「これは徹底的に痛めつけるしかないな」と思った。

ジェーン・バーキンには、エルメスのバッグを買ってから使い始める前に必ず行う事があるそうだ。鞄を床に思い切り叩きつけ、上に乗って何度も飛び跳ねて踏みつけるという話。有名な逸話だがこれは本当にそうで、革製品や重衣料、デニムは使い込んだ雰囲気のある方が格好良いと思う。私もラッパーでもないのにピカピカのスニーカーを履くのは恥ずかしいと思う古い人間の一人。

とりあえず軒先に吊るし、太陽光で焼く。BREEを買った時みたいに2週間真夏の太陽に吊るした。無意味だった。

次に思い切り投げ、手で曲げようとした。びくともしない。仕方ないので靴屋に持っていき、友人にバールのようなもので曲げたり叩いたりしてもらい、有機薬品で脱油してカッスカスにしてもらった。

表皮は少し剥げた。でも硬い。足指が持っていかれる。使いこなせない。しょうがないので最終的には高温に熱した油をかけるにいたった。革靴揚げさながら。革靴を鍋で煮て食べた人を聞いたことがあるので大丈夫。

吉見さんに怒られるんじゃないのこ。大丈夫か。ごめん、オーダー会にはいけません。今、服オタ煉獄にいます。

そういった煉獄をくぐりぬけたこのRENDOのGODZILLA、今ではレギュラーメンバーとなっている。

このドラゴン殺し、確かに相応の凶悪な力。軽い気持ちで小石を蹴ったりすると遥か遠方に飛んでいく。前の人の踵を蹴ってしまうと飛び上がる。満員電車の中では戦車が旋回するかのごとく。こんなデカいのにフィットしたためか凄く履きやすい。たまに傷つけられたりもするが、傷を飲み込むので概ね良好。恐ろしいのは、叩いたり加圧したりしてみっちり詰まっているからなのか、リッジウェイソールだからなのか、全く物音がしない。足音がしなくなるのに無骨極まりないしデカいし剛力。

最近は鍛金するように、黒を塗り込んでいっているんだけど、アンティークフィニッシュみたいになって一層の異常生物感が出ている。

この靴自体は異形なんだけど、このモデルの元、スムースレザー・ストームウェルトとか付けない・革底verは、サイドエラスティックの靴としては良い。何しろ木型の設計が日本人向けという事で良く出来ている。

海外の良い靴というのは、元々のラスト設計の出発点がアングロサクソンの足だと思っている。RENDOに関して言えば、「日本人の足」という出発点があり、そこから欧州が辿り着いた美しい靴の形という理想と手をつなぐ所に立っているように思える。

サイドエラスティックは日本の生活に適している。ローファーはカジュアルだが靴を脱ぐ機会が多いので紐靴は避けたい、という需要に真っ先に対応する、揃えるべきドレスシューズの一つ。問題はその紐が無い顔。裾幅を広く取り隠す人や、チャーチルみたいなイミテーションレースを買う人など、多様な対応策がある。個人的にはパキッとしたドレススタイルでなければ、ブローグがあればいいんじゃない?と思っている。キャップトゥであれば割と顔はカチッとしているので、黒とかだと禁欲的な足元に見える事もある。不思議。

それにしても元のモデルが持つ禁欲的、というイメージとは無縁の代物。逆に紐靴だったら丸紐のおかげでカントリーに振れたのかもしれないけど、無いからキャノーラテンプーラフィニッシュベルーガレザーの岩肌が異様に見える。放射能で異常進化した個体。ゴジラ肌。