近所に畳屋がある。前を通ると、い草の青い香りが漂う。静かに力を持つ陰影のある匂い。短髪の職人はコンクリートの地べたに座り込み、畳の端に刃物を当てている。寡黙だ。

夕方に畳屋を通りかかる。職人の息子らしい少年が、店から半分くらい顔を出した軽トラの荷台に乗って腕を組んでいる。白いタンクトップに短パン。動かない。仁王立ちして虚空を見つめていた。建造物のように静止しており呼吸のリズムすら見えない。


遠くて建造物を削る音が聞こえる。荷台の幌が遮り切れなかった西日が、少年の組んだ腕を照らしている。目を細めもせず、無表情に何かを見つめている。目線の先には柵があるだけだ。突然、彼は弾かれたように荷台から飛び降り、トラックのバックミラーに引っかかっていたシャツを鷲掴みにし、颯爽と街並みを走って行った。


湿った草のようなカーキ色のシャツが、彼に置いていかれまいと風にたなびく。い草の香りと、夕陽の光で黒ずむシャツの色をただ見ながら、もう暑さはピークを過ぎたのだろうか、と思った。


アンティークリネンは扱いが難しい。表情が落ち着かない。そのくせ、「俺はこんなもんじゃない」という顔をときおり見せる。価値があるんだかないんだか怪しいのに、現代の生地では見当たらない力が垣間見え、全体像を彩る。まやかし。本当に些細などうでもいいことが、日常の中で美しい、と感じる一瞬のあるように。
なんとなくポエムをそらんじてみたが、実は特に言う事が無いからそうした。この服はポエムを書きたくなるような服ではない。強いて言うならシャツに数万出してないで日常の風景に美を見出した方がいい。

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