長かった。鞄が欲しいとにかく欲しい、と悩み、終わりかけた旅を諦め、ここだろ!と思ったビスポークもかけたのに、未だに満足しない。これも終わりだ。

深谷秀隆、彼の名はtomorrowlandの別注シューズで初めて知った。やたらとシュッとした靴あるなぁ…と思って見ていたHIDETAKA FUKAYA。タイユアタイのフランコミヌッチが認めたイルミーチョ、あの猫ロゴの注文靴屋の人のだと気付くまでしばらくかかった。

正直靴のデザインは好みではないが、鞄をリリースしだしてから気になり、しばらくして発売されたのがこのシンプルなトートバッグだった。

持ち手は素直に本体に縫い付けられている、が端正で細かい仕上がり
スナップを外せばマチが大胆に広がる
生成り色のコットンの裏張り。ciseiのピッグレザーのような高級感は抑えられ、清潔感がある

革質は申し分ないブルレザー。耐久性があり傷も付きにくい。しなやかな厚みがあり見目麗しい。シンプル極まりない。

ちなみに同型のtomorrowland別注の赤のバッグの発色がとても良く、あやうく勢いで買いかけるくらいだったが流石にビジネスでは挑めなかった。

コバの処理も真面目そのもの。ここがオレンジになったものがあるがそれが深谷氏の元祖だろうか
スナップを開かなければスリムな見た目

大きさと持ち手がこの鞄のポイント。ギリギリ肩掛けが出来る長さにすることにより、手で持っても床や階段に付くリスクが軽減される。また、肩掛けした際に後ろにかさばる面積も最小限に抑えられる。まあ逆に肩に掛けた状態で中のものを採りだしたりなんかは難しくなるわけだが、それにしてもこの長さのトートバッグは珍しく、シンプルながら考えられている印象を受けた。

良い鞄だ。

が。

が、である。それこそ、この鞄を使って新しい生活を初め、そこそこに気分が上がった。が、これが上がりの鞄か?違う。納得できない。

結局近い回答はARYSのベストを購入した時に見えていた。そう、上がりなどない、つまり解は「鞄を持たない」。これに尽きる。ならポケットにモノを入れるのか?となるが、スーツなどのポケットは極力使ってはならない。クラシック趣味の連中はその解を車などに求める。ただ昨今、都市の若年世代は車所有率が低下している。一方で物が小型化されたと言ってもスマホや財布はあり、それらを収納しようとすると衣類のポケットを使う事になる。不格好。

現状の解はこれ。これをそのままという訳ではない。レジ袋でも適当なエコバッグでも何でもいい。クリアファイルや、荷物をダイレクトに手で持つだけでもいい。なぜそれが成立するのか。これは端的に解答している先人がいる。端的すぎて素晴らしいのでこのツイート以降読まなくても差し支えない。

かつてgentenの女性店員は言った。身体の中心からどれだけ離すか、どうやって体と鞄が接点を持っているか、それが鞄を合わせるのに重要なんです。これを言われた時に興味深いな…とか思って何も考えなかった。考えさせられるとか言って考えない人を馬鹿にする資格が私には無い。

鞄は荷物をコーデに取り込む手法であって、それはほとんどの場合ーーー特にアウトドアではない都市生活の場合、要素の追加となる。要素を減らすことが重要とされるコーデにおいては切り離して考える事が適している。中途半端にレザーのセカンドバッグ等を合わせようものなら余剰なコーデとなる。「装備を装着している」ような関係ではなく、「自分に一時的に鳥が止まっている」ような関係にすることが大事なのではないだろうか。

鳥…?何を言っているのか自分でもよくわからない。服の話をしてて止まり木は出てこないだろ。もうダメなのがわかる。鞄はヤメだ。こんなもんテキトーだよテキトー。やめよう小さい事にこだわるの。はい、ヤメヤメ。男は黙ってスーパーフリー。極度自由。

上がりなどないという事がわかってからは、残された道は二択。上がりなどないから合理的に妥当な鞄を選ぶのか。それとも99.99%の満足に、さらに一桁加えんがために追い求めるのか。これは選べるように思えるだろうか。そうじゃないんだよねえ…。