フィレンツェに住む村田さんというアルチザンがいる。その人の作ったSaicというブランドの鞄について。

コンビのブリーフケース


作り手について

村田博之氏とその奥様で作っている。

村田さんは大きな体躯でありながら穏やかな方で、口数は少なめだ。革の職人ながら瀟洒な格好で、服も好きなのだろう。夫婦で手掛ける革製品は彼自身のように、朴訥でいて細部まで洗練されている。コロナ禍においても丁寧にメールをくれたりと紳士的な方なので、この鞄も信頼のおける作りをされているのでは、と思わされる。

トランクショーには村田さんが昔一緒に働いていた大平さんのCiseiのバッグを持っていった。やはり一目でわかるようで、鞄の良い所も悪い所も熟知されている。

オーダーは彼が年に数回、日本に訪れた機会に可能。トランクショーにはサンプルを多数持ってきており、彼の今までの作品から選ぶのが基本。でもビスポークなので要望は聞いてもらえるし、明確なデザインが提案できれば作ってもらう事も可能だろう。ただ、サンプルがどれも均整のとれたフォルムで美しいので、バランスを崩したりするより彼のセンスを信用する方が良い気がする。村田さんは建築のキャリアがあるらしく、私は個人的に建築を学んだ人は立体の比率のデザインが上手いイメージを持っている。

鞄の見た目

美しい。言葉でどうこう言うより見てもらった方が早い。

ヘビーデューティー。ダークブラウンのオイルドカーフと黒のトリヨンのコンビ
底鋲有。ジップ部分の革がサイドにわたって本体に被さる様に取り付けられている

細部にわたって隙が無く、気合の入った仕上がり。

鞄の使い勝手

この鞄を使ってみて半年近く。

ユーザビリティの面での所感を以下に列挙する。

  • 重い
  • 自立する力が強い
  • 多少の傷は気にならない
  • 容量は多い
  • 持ちやすい
  • コーディネートに合わせやすい

とにかく重い。トリヨンカーフだし、裏地もちゃんとしたスムースレザーなのが理由だろう。ただ、自立する力や傷が気にならない部分に寄与しているのでトレードオフという面もある。

持ちやすさは今までのブリーフケースの中で随一。持ち手がやや長く見えると思うが、しっかりとした芯が入っており、某ブランドPのようにフニャフニャではないので、重たい本体に持ち手が持っていかれる事が無い。自立させると持ち手がスッと立つ様も見事。この点は本当に称賛したい。

今回のオーダーで最もこだわったのは色。そもそもコンビなんて買わない人間。それなのに作ったのは、「靴やベルトが黒だろうと茶だろうと合わせられるから」。気にするなという話だが、気になってしまうので、気にならないようにしたい、それだけ。

ジップがサイドまで開き、上部が大きく開く仕様のため荷物の一覧性が高い
持ち手がしっかりとしており、形が崩れる気配がない

オーダー方法と価格、納期

国内であれば、トランクショーが年に数度ある。基本的にはユーロで発注前金、納品後金で半分半分。価格は手ごろ。ORTUSでオーダーしたり、ブルゴでCelleriniをオーダーしたりするよりは安い。ただ、Bellagoやciseiでパターンオーダーするよりかは高い。

レディースはもちろん、独自の染めのコットンファブリックまである、多種多様な鞄の森
最近は小物もやっており、ベルトが他にはあまりないデザイン

Instagramアカウントで連絡するのが主な手段だろうと思ってたけど、どうやらinfo@saicfirenze.comから連絡すればいいみたいです。

ロゴは内側に控えめにおり、これは最適解

良質な革を使って、見目形の良い鞄を作ってもらい、ずっと使い続けたい。そういう人にお勧めです。