OVERCOATというブランドにパンツがあるように、Fendartというブランドにもジャケットがある。
Fendartはズボン、という意味だと以前書いたのだけれど、割と普通にジャケットを出してきた。こういう所だよね。
実を言うと、当初次ジャケットですと聞いた時、「ジャケットかぁ・・・まあ今は敬遠するだろうな」と思った位にはジャケットに困っていない。見送ろうと思っていた。モデリストブルゾンもあるし、La favolaもあるし。探してるのは映画リミッツオブコントロールのヴァイオリンみたいなジャケットくらい。立ち襟ジャケットじゃなく、くたびれた感じのいかがわしい雰囲気を求めていた自分だった。
ところがプロトタイプを見た時、「これでは・・・?」、と思い、現物見て、「これじゃん」となった。出来たのを着て「これだったわ」。まさかFendartからド直球でソリューションがリリースされるとは露とも思っておらず、予想外。完全に持っていかれた。何者なんだ。
白金台の魔窟で、この肩線のタックは何や?と言ったら、某パリのモデリストTSさんが「シャツのサイドプリーツみたいなもんですね」と、さらっと言った。覚えてる。その時私は「人体の立体を最小限に抑えた仕様で解決する見事な仕事ってやつやん」と驚いた。のだが、全くもって勿体つけずに「別に普通だし」みたいなノリでTSさんがノンシャランに言い放ったので、「これがパリ…!これがパリか…!!」と泣きながら走り去った。
生地はw.billのアイリッシュリネンで380。重めのリネンは皺の幅が太く走るので視界に入ってもうるさくならない。ライトな色のジャケットに何度も何度も失敗してきているのだが、明度を抑えた色でリネン、且つこの襟が立った型なら「たびびとのふく」感で着ることが出来ると思った。明るいジャケットはイキった印象が出がちなのだが、皺と立てた襟により、疲れが出て、ややジプシーのような印象を帯びる。結果として猫背と相まっておさまる。良い選択をした。
選択肢にあったカシミヤのブルーネップ、見事なテキスタイルで、これは誰か選ぶだろと思ったら本職の人が選んでて、ですよねー、となった。
袖の釦は無い。すっきりしている。猫目釦が並んでると私は嫌なのでこれは良かった。ここは好みが分かれるかもしれないが、すっきりした設計が根本にあるように見えるので要らないという事だろう。
フロントのボタンはフロントカットに沿わず、どこで留めても狙ったシルエットを出そうとした設計思想を感じられる。第二釦を留めてポケットに両手を突っ込んでも、フロントのストレスがうまく流れるようになっているのはパターニングの妙なのかなと感じた。
また、襟には芯が入っていない。前後で差を調整してラペルが返るように設計されている様子。
大見返しで軽やかに、且つ内ポケットはボタン留めが二つ。このあたりも「たびびとのふく」感がある。これはなんで両方なんだろうか。なんでですかTSさん。
胸ダーツが無く、芯が無く、ベントが無く、絞りも無く、袖釦も無いという無い無い尽くし。ジャケットのツラを持ち合わせ、ジャケットの理論を随所に感じるのに、ジャケットなんだか、カバーオールなんだか、中世の服なんだかわからない。得体の知れないそのカンジ。俺、憂い、夕暮れに、たまーにサーッとなるカンジ。
驚いたのが、デニムとウエストンのゴルフと合わせて、両ポケットに手を突っ込んで歩いてた時、友人から「パリとかにいそう」と言われた事。ウエストンのウの字も知らぬ一般人にそう思わせるほど、知らぬ間に自然に着用者の印象にパリをインストールしていたのである。「これがTS…!これがTSか…!!」とパリジャンの恐ろしさを思い知った。
冒頭で述べた通り、自分がイメージしてたのはジャームッシュの映画の人で、これ舞台がスペインなんだけど、まあ、スペイン感あるかといったら無い。かといってフランス感も無い。国籍感、たぶん無い。無い無い尽くし。覚えているのは冷たい感触と、朝日が差し込む部屋のあのカンジ。
今のところかなり気に入っている服のひとつです。シアサッカーとか良いだろうな…。
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