今年の最後は最高級の既製品シャツについて。
最高の既製品シャツ、諸説ある。やはりクラシコイタリア、アットリーニやブリオーニ、キートンだ。いやいやラグジュアリーたるロロ・ピアーナ、エルメス、ラルフローレン パープルレーベルだ。いいえ老舗ファクトリーでしょう、シャルベ、T&A、フライ、ブリーニ、アンナ、ボレッリです、と。
ブランド自体の価値も含め、”最高”は恣意的な要素で決まるので意味がない。個人的には、ロロピアーナやエルメス、ブリオーニは確かに素材が良いが、他に印象に残らなかったので書くことが無かった。アットリーニは確かに完成度が高い。昔はアンナ製だったが今はどうなのだろう。そんな中で、キートンはちょっと「おっ」と思わせるものがあった。
1968年イタリアはナポリで設立された家族経営のテーラリングブランド。最高級の一角を占める、ラグジュアリー、それもほんもののラグジュアリーブランドである。キートンはアットリーニ、イザイア、オラツィオルチアーノなどの創業者を輩出している。
世界に50店以上を構え、800人ほどの従業員を抱えるが、従業員の半分以上はテーラーか職人。それくらい手仕事にこだわっている。創業者はチーロ・パオーネ。彼は2年前に88歳で亡くなってしまった。生地卸売業の家系の生まれだからか、キートンの生地は高品質なものばかり。上の上レベル。エクスクルーシブが多い、というのは良く聞くが、ともかく店頭の衣類を触っても滑らかで美しくラグジュアリーなものばかりだ。私はグアベロとカルロバルベラの生地は上質さでは素晴らしいものが多いと感じるが、カルロバルベラはキートン傘下だし、グアベロともつながりが深く、よく特注生地を提供しているそうだ。
キートンのシャツの目立つ特徴はボタンである。白ではないのだ。クリーム色、というかイエローというか。どのような意図かわからないが、濃色のシャツやわざと赤いボタンを使っているものでなければ、キートンのシャツは大抵このボタンである。ブランドによればオーストラリアのピンクターダ・マキシマ・マザー・オブパール、とのこと。ピンクターダ種は世界最大のアコヤ貝の一種らしい。それであれば白蝶貝のような、虹色を潜めた白いボタンと違うというのは理解できる。真珠は価格的に白蝶よりアコヤの方が高いが、ボタンになるとどうなのだろう。
22か所が手縫いで、手縫いのステッチを隠している、とサイトでは謡っている。手縫いを押し出すブランドなどは、星縫いの星がデカかったりするが、キートンは控えめである。「隠している」というのがそのことかはわからないが。仮にOEMでどこかの工場…例えばマリア・サンタンジェロとかアヴィーノあたりが作っているとして、「手縫いのステッチ控えめで」とかオーダーしているのだろうか。縫う方としてはわざわざ手縫いの指示なのに隠せってどういうことだよ…とか思いそうなものだが。
シャツは白かサックスブルーと決めていたが、最近ブラウン系の服装に合わせるものとして、且つキートンのボタンの色を考慮してイエロー系にチャレンジした結果がこれである。デボンファクチュールの項でも述べたが、黄色のトップスは割と好きだ。ただ、自分にはビジネスシーンでレモンイエローを取り込むのはやっぱり厳しかった。褪せたネイビーやエクリュと合わせるとまあ良いのだが、やはりマインドに軽快さが無いので「どうした?」となってしまう。
ただ、とにもかくにも良いシャツである。中心から終端に向かってシャープさを増す流れがあり、柔らかさと端正さのバランスが高いレベルで取れている事。それがエレガントという形容の神髄だと思っているが、キートンのシャツはその意味でトップだろう。唯一、コーディネートを考えた時のボタンだけがわからなかった。わからなかったが、何かの意志があるのだろう。
富裕層は得てしてラグジュアリーやメゾン系のシャツを着、クリーニングしていると推測される。このシャツは超富裕層向けのものだと思う。なぜならクリーニングを拒む生地と仕立てであり、厳格なビジネスの現場にも向かない柔らかな佇まいだからだ。そう、これは地主スタイル。地主はお洒落なイメージが無いが、今、持ってて一番オシャレでモテるのは車でも時計でもなく土地。地主にキートン。鬼に金棒である。
これ以上のシャツはビスポークしかないのだろうと思っている。思っているので凝りもせずまた新しいシャツを作っている。良いお年を。
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