夏のはじめから、私はセールそっちのけで重衣料が欲しい。
私には重衣料を選ぶ際にある基準がある。
「重大な災厄に遭い家を捨て出なければならない時にワードローブから持っていくひとそろいに加わるかどうか」である。
今、隣家から火が出て家を捨て出なければならない一刻の猶予を争う時に着る服かどうか。
そういう妄想を未だに良くする。
ジルサンダーやヘルムートラングに傾倒した時に
「カッティングが美しく、余計な装飾が無い物」が良いと考えていた。
素材・アルチザン系等に傾倒した時に、
「頑丈で良い素材・縫製を用いた物」が良いと考えていた。
ステファンシュナイダーに傾倒した時に
「硬質すぎず、程よいバランスの物」が良いと考えていた。
チャラヤンに傾倒した時に
「禁欲的だが機能を備えた物」が良いと考えていた。
総合すると「劣化せずに頑丈で良い素材・良い縫製で万人受けするデザイン、更に良いカッティングで機能性も確保したもの」である。
ACRONYMとかTEN-Cが行き着く所なのではないかと思ったのだが、どうも無骨さや冷たさが勝るイメージがあり、更にまだ削れるだろうという要素が多く、納得がいっていない。
アルチザンやスポーツ界隈は無骨なものやオーバースペックなものがたっぷりとあるが、もっと「なんてことはない」という顔をしていて欲しい。
のっぺりした柔和な顔付きながら筋骨隆々の暗器使いで72時間走り続けられるようなキャラクター性のある服。服の青い鳥症候群なのだろうか。
QMONOSやテナラスレッド、東レをはじめとした素材の革新は続いているが、未だに満足の行くものは見つけられない。かといってオーダーする財力も無い。
Industry4.0が叫ばれて久しいが、自分の考えでは2018年ごろには「pdfでパターンデータを工場に送信し仕上げるオーダーメイドEC」が出来ると考えており、事実今乱立しているシャツのオーダーECはほぼその形に近い。
残るは素材の選択肢。ここはディープラーニングデータを生産ラインに与えて誤差をカバーできるシステムがそのうち出来ると思っている。その時には欧州から妙なカラートレンドボードをうん十万もかけて買う必要などが無くな・・・何故こんな話をしているのだ。
話を戻そう。
山本耀司はノマド・・・遊牧民が好きだそうだ。
前からそうだが、彼は今の人々の服装を指し「軽薄だ、薄着だ」とよく言う。
着込んだようなボールドなファッション、自分の財産を全て抱え込んだようなファッション、そういうものに憧れるのである。
私もどちらかと言えばそれに近い。ただ、彼が目指すような重たさというのは必ずしも必要ではない。
ダナーライトのケブラー2とかこういうのが近いのかもしれない。結局これはサイズが合わずに実家に蔵入りし、廃盤になっているわけだが。
少し前までシャツというのは、こういうジャンルから最も遠いのではないかと考えていた。
下着や靴下と同様、損耗が激しくて買い替えを余儀なくされる。
が、30年もののリーバのシャツを着ている人などを見てからというもの、そうでもないのかなと思うようになってきた。
上手く修理すればずっと着ることが出来るし、特にコットンなんかは上質なものをずっと洗濯していると、ある時点からとても柔らかくなってくることも確認できた。
ビンテージリネンシャツの力などはマーガレット・ハウエルを見れば明らかである。
だからこそ今後、シャツを買う時にも私は考えるだろうと思う。
「大災害時に膨大にあるシャツのワードローブから、そのシャツを羽織って出て行きたいか」。
今後シャツを買う機会は減るだろう。
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