定番のフェイクシャツではなくスタンダードの方。

ソニアのショッピングマニュアル」は結構好きだから何回も読んだ。もちろんver3まで読んだ。

途中に挟まるポエムはなぜに色恋沙汰が多いのだろうと思いながらも、やっぱりver1が一番強度があって好きだった。あれ初版2004年なんだね、15年以上前か。

10年以上前はプアマンズポールハーデンでしょ、ってモード系女子が言っていたが、今や店舗も増え、好調なイメージすらある。個人的には名付けが上手いブランドだな、と思っていた。泥棒コートとか、洗った犬の表情を名前にしたジャケットとか。最近は普通の名前の服しかないし高くなった。ソニア氏自身、金を経験に変えることに価値があるって言ってたし、貯金は無意味って言いきってたし、まあ、金を出して徳を積めってこった。

襟は5mm幅で、運針は8ステッチ。ブロード生地のドレスシャツでは一般的な幅。運針は良好のライン。前立ては32mmで、ターンブル&アッサーとほぼ同じ。

袖裏。


ラジェシュ・プラタップ・シンを思い出すような、はしごレースで袖や背中を縫っている。背中はヨーク無しのシンプル仕上げ。

ドレスシャツはフィットを求める為にヨークを取るが、カジュアルでシンプルに仕上げたいならこうなる、という事だろう。ヨークの有無とシンプルさへの傾倒の関係は割とシャツ好きの間で議論になる(複数の私が一人で議論しています)所で、多くは一般的なドレスシャツを意識するか、昔のビンテージシャツを意識するかで決まってくる。ヨークを省く事が逆に装飾的な操作である、という考えもあるのでは、という事だ。アーツははしご縫いを使っている辺りも含め、アルチザンブランドを並べるセレクトショップらしいこだわりだと感じた。

釦が象牙っぽい色だなーと思ったけど何の貝かは聞けなかった。

このシャツもそうだが、基本的にアーツの服は「着込んだ感じがあるもの」が多い。服好きは、「服が人に好まれ着られた結果として蓄える表情」が好きなのだ。

ハーデンやケイシーは「洗い感」を生業とするので少し違う。もちろんリネンをテーマにしたnest Robeとも違う。そこには「こなれ感」だけではなく、何かスピリットが見える。

ソニア氏は「ショッピングマニュアル」と銘打った本を出している通り、かなりの買い力(not購買力)がある。審美眼と言うと聞こえはいいが、買い力ってのは「こいつは買いだ」と判断する速さと、振り返らない心の強さであり、それらは踏んだ場数の多さに比例する。一番買った奴が、一番買い力が高い

服を買った後は着る時も快楽を感じるのが普通。だが、高い買い力を持つ人間は、「着て得る快楽 < 買って得る快楽」という性質を持っており、それでもって異常な場数を踏みモンスターバイヤーになっている。過去、インタビューにて、”高い酒とか飲んだらすぐ無くなるし、温泉は一晩で5万とか吹っ飛ぶのに、洋服は残るのが嫌ね、3年位で溶けて無くなって欲しい“とか言っていたので自覚もおありだろう。

始終買っているので、着なきゃならない服は多いし、着る時間もないと推察する。だから1着を着込めない。しかし上述の通り服好きは愛された服=使い込まれた服が好きである。したがって「着込んだ感じが最初から備わっている」服を作る事になる。

だからアーツの服は着込んだ感じがあるものが多いのではと思っている。というわけで、私はこのシャツがクローゼットにいる事実は溶かし、次のシャツを買おうと思う。金を経験に変えることに価値があるんですよね、先生!!