シャツNo.165 Turnbull&Asser ターンブルアッサーのターンブルカラー3連釦シャツ


 
本来の意味での「定番」、それは「スタイルの定番」である。
 
その意味の定番のシャツ。それがイギリスのスタイルを象徴する今回のシャツだ。
 
 

13のピースで作られた襟。

曲線で構成されたパーツ。

6年以上のマザーオブパールのみを使うボタン。

「特殊なワックスを使い強化したため解けることがない」という自信の証明としてスペアボタンが無いボタン糸。

ロイヤルワラントを持ち、エドワード8世やチャーチルに愛されると共に、ジェームス・ボンドなど銀幕の人々にも好まれた。白洲次郎ブランドでもある。

英国のターンブル&アッサー、世界で最も有名なシャツブランドの一つ。

 

1885年、レジナルド・ターンブルという靴下屋と、セールスマンのアーネスト・アッサーが紳士用品店を立ち上げた。10年後には、二人の名前が由来になったターンブル&アッサーに名前を変え、第一次世界大戦でトレンチコートをはじめとしたアウターなどを軍に納めた後、20年代にシャツに力を入れ始め、アメリカの経済成長の波に乗り成功。イギリスのシャツ通り、ジャーミンストリートを代表するシャツ屋だ。

ターンブル&アッサーを購入するにあたり、英国らしいマルチストライプにするのか、ダブルカフスにするのか、ターンバックカフスにするのか検討した。なんなら最近はスリムフィットがある。が、やはり本当の意味でのクラシックなシャツを考える機会と捉え、クラシックフィットの白無地、ターンブル&アッサーのアイコニックな三連釦をセレクトした。襟型はもちろんターンブルカット。

生産の3割がビスポークと言われるターンブル&アッサーだが、ビスポークは6着から。安価な生地でも18万からの計算だ。ビスポークシューズが作れてしまう。私は日本人のターンブル&アッサーのビスポーク経験者にお会いしたことがない。

 

幅31mmの前立てがあるプラケットフロント。

これはプリーツフロントの名残であり装飾的な意味を持っているため、ドレス寄りということになるらしい。個人的にはアイロンを掛ける際に気持ちよくないのでこの要素は苦手。

 

釦はオーソドックスな直径11mm・厚さ1.5mmの白蝶貝。

全てしっかりと根巻されている。イタリアの足が長い根巻とは異なり、ガッチリと硬い。アスコリットのボタンラッピングマシンだろうか。

 

この特徴的な襟羽根の曲線。これがターンブルカットである。

襟の先端がジャケットの内側に入り込み、見えなくなるように設計されている、と説明されている。先端は7cm幅。上の画像は内側にカーブしているように見えるが、下の画像の通り曲線を描きながらS字を描く。

台襟は3cmで、イタリアに比べれば高くはない。

 

内側で五角形のガゼット。小ぶりで主張しないので好感が持てる。

身頃の縫製幅は4mmで安定している。

 

 

「シャツは下着です。そのシャツにどうしてそこまで入れ込むでしょうか。」

ターンブル&アッサーの社長の言葉だ。雑誌のインタビューでの一言。その雑誌には良いシャツの見分け方、という類の特集を展開し、ディティールの見方が書かれていた。

モノの目利きの際には物差しが必要となる。このブログもそうだが、「どこまでディティールが凝っているか」というのは誰でも目視で確認できる事が多いため、説得の材料となりやすい。ディティール販売、それはバーグドルフグッドマンにてあるシャツブランドが推した方法であり、確かに有効ではある。

だが別の物差しに、「スタイルをどれだけ確立できるか」がある。

今日本の多くの人は「定番」を「周囲からの評価を損なうことがない無難なもの」と考える。これは、「ファッションの定番」。しかしターンブル&アッサーのシャツを指して言う「定番」は普遍的なものを指す。これは「スタイルの定番」。 

イギリスの製品にはいわゆる「スタイルの定番」が多い。イギリス人はモノ作りを変えられない。それは「つくり方を変えない」ことが重要だと思っているからだ。バブアー、トリッカーズをはじめ、モデルによっては10年以上何も変わらないものすらある。大抵、ブランドの方向性が劇的に変わっている時、そこに働いているのはイタリアの資本の力学だ。トマス・メイソン、ベルスタッフ。

繰り返すが日本で言われる「定番」は、これを着れば周囲からの評価を損なうことはないという「ファッションの定番」である。周囲と同じである安心を買っている。一方イギリスは階級社会のため、「スタイルの定番」の意味合いは「着れば特定のスタイルを確立するもの」。それは自分のスタイルを、ステータスを表す。落合正勝に言わせれば、その中で最上級のものというのが「クラシック」。このシャツはクラシックなスタイルを確立するもの、というわけだ。

例えばある日シャツのオーナーが、イタリアの艶めかしい生地のシャツに気がうつろって他のシャツを選ぼうとして迷うも、ターンブル&アッサーの襟型は動じない。シャツは彼に示す。「これが最もクラシックなスタイルを提供する襟型です」。彼は鏡に映ったタイドアップされたターンブル&アッサーのシャツを眺めながら、「やっぱり私のスタイルの一助となるのはターンブル&アッサーだ」と安心する。
 
ターンブルアッサーをはじめイギリスの定番品が評価される所以はこういう所だ。イギリスのモノ作りは、トレンドを全く無視するわけではないが、ファッションとは本来的に違う。イタリアのモノ作りと異なるのはそこである。彼らはファッションをする人のために作っているのではない。ある階級の人は服装に気を使う必要があり、そのための服がクラシックな服であり、イギリスのメーカーはそのルールに則って作るだけだ。
 
その場合、やれ生地がどうとか、手縫いがどうとかは意味がない。「そのスタイルを確立しているかどうか」でしかないのだろう。
 
 

しかし面白い。

カフの三連釦とか、良く見てみるとわかるのだが、

このように三つの釦・ホールの位置が放射線状になっていることで、

 

シャツのカフを円錐にしなくても、釦を留めれば先がすぼまるようにできている。

やはり最高のシャツの一つだけあって、ディティールは気にしないとか言いながらあなどれない。

こういうシャツを嘗め回すように見るのはやめられないものである。

たまにこういう細かいことをつらつらと言うのは粋ではない、とか親切心で言ってくる人がいるのだが、粋ではないと人に言う事自体が粋ではない可能性を考慮できない人間とは疎遠で結構、蕎麦食って酒あおって屁をひって私は寝る。


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3 Comments

  1. かわふくろう

    bengal様

    御返信ありがとうございます。
    わたしなどはシャツ初心者でありまして、その三者の特徴などが分からないというか久木元さんにいたっては名前も存ぜず。シャツ玄人(?)からすれば比べるまでも無いのかも知れませんね。
    シャツだけでは無いですが、made to measure はモノと体験を買っているように思うので、未経験者には分からない部分が多い世界と思います。このブログを読んで、えいやっ!と清水の舞台から飛び降りる人が増えれば面白い、いや増えて欲しいです。

  2. >かわふくろう様
    毎度こんな自己満足のものを読んでいただきありがとうございます。
    南さん行かれましたか。最近ではパターンオーダーも始めていますよ。そちらも評判はいいみたいです。
    比較…個人的にまとめようかとも思ったのですが、途中まで書いてみて、値段と接客しか比較できてないなと思ってお蔵入りになってます。笑
    そもそも、表立ってシャツ屋で食ってるのは南さん山神さん久木元さんくらいですし、3人とも特徴的すぎて比べるのも違うのかなと。
    難しいところですね。

  3. いつも大変面白く拝読しております。更新がいつも楽しみです。
    このブログの影響で、南シャツのシャツを作ってしまいました。ビスポークは初めてだったのですが、丁寧にご紹介していらしたので、なんとなく安心してオーダーできました。
    谷シャツ商会のシャツの記事も興味深く読みました。それぞれのオーダーシャツの着心地やフィッティング等の比較などしていただけたら、さらにオーダーシャツへの間口が広がるのでは、と思った次第です。made to measureの洋服屋が増えると嬉しいですよね。

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