シャツNo.176 charvet シャルベのシャツ


ファッションの定番とスタイルの定番。今回も引き続き「スタイルの定番」についての話になる。フランスのシャツである。
 
世界で初めて「ワイシャツ」を開発、名だたる要人や有名人に選ばれ、ルパン三世からソフィア・コッポラにまで愛される、シャツの元祖であり最高峰シャツブランドの一つ。アルマンドレタンジでもアルベールゴティエでもなくましてやアランフィガレでもない。
フランスのシャルベ
 
 
 
創設者はジョセフ・クリストフル・シャルベ。ストラスブール生まれの父はナポレオンのワードローブ管理をしていた者だったという。シャルベがレディメイドを定着させるまで、シャツというのは、客が生地を持ち込んで店でメジャーメイドするスタイルが一般的であった。1838年の創業以降、シャルベはビスポークをベースにシャツを作ってきた。既成シャツは後世になってから出来たもので、手縫い等はほとんど使わず簡素ながら上質な仕立てを目指している。「簡素で上質」というのが何かについては後で述べる。
 
現在、シャルベには既製、パターンオーダー、ビスポーク(仮縫い付きもあるらしい)と3種類のラインがある。そのうちビスポークは6.5万~らしいが、これがアトリエメイドにあたり、他はフランスの中央工場で作られているそうだ。
 
それではシャツを実際に見てみる。
 
 
襟は前方が高さ3cm、後ろ台襟高は3.5cm。王道だ。エドワード7世は台襟高めで隙間を空けずに羽根が降りる襟(今で言う襟高めのタブカラー)でオーダーしていたようだが、それは当時クラバッタがある頃の主流だったのだろうか。
 
個人的には、シャルベのイメージたるスカイブルー・ライトブルーで小襟気味のシャルベカラー、という感じがフレンチど真ん中で好きなのだが、柄合わせを確認したいというどうしようもない理由でストライプを選んでいる。ちなみにこれ買う時、三越の人には記者だと思われていた。
 
 
裾。1.5cmの折り返しを縫い留め、スリットが10cmと深めに入っている。
 
シャルベのディティールの特徴は、スクエアカットの裾、タックもダーツもない背中などがある。
 
 
 
背中に何もないのは、注文服を基本としていたかららしい。落合氏の本だったか、「身体に合うサイジングであればシャツは前後の運動が基本となるため後ろの着丈を長くすることでほとんどの動きをカバーできる」という考え方が基になっているらしい。腕の水平方向の動きは考慮しないのだろうか。
落合氏は当時、「素材、作り、製法、着心地の4つの面で認めるシャツは、シャルベとブリーニのみ」と書いていた。FRAYが好きな方だったので、同タイプの「端正で丁寧に作られたシャツ」であることは納得できる。だが、フランスのシャツの特徴として曲線ヨークの立体裁断とか、身頃のシングルニードルとかを称賛していた気がするのだが、今やそれらは珍しくはないだろう。日本のシャツでより低価格なものでも、同等のレベルのものは多数存在する。
 
 
当然袖付けは真面目。縫製部分はアームホール一周どこも5mm。だが、身頃の縫製線は3mm強と細い。
 
ぬめりある光沢がある生地は、しなやかで肌馴染みが良い。
 
シャルベの特徴としてもう一つ、これはショップとしての特徴だが、生地に強いことがある。ビンテージの生地はもちろんのこと、彼らの選ぶ生地は一定の品質を担保している。本店はあらゆる種類の生地をストックしているらしい。「貴族のシャツ屋」なので、反物で生地をストックしどんなオーダーにも応えられる懐を持つことが求められたのだろう。
 
 
シャルベと言えば「柄合わせ」。剣ボロや袖付け部分など、これはメンズイーエックスでずっと昔から言われている事。これが美しいっていったってそんな細部見ないでしょ…と思うのだが、販売する方は「これだけこだわってますよ」という根拠として使ってくる。
 
あと、既製品でコンバーチブルカフであることが多い。某スタイリストSのオーダーが超多かったから国内品はそうなったのかなと勘ぐった事もあったがどうなんだろう。ちなみに剣ボロの釦はない。
 
 
ボタンは11mmの二重たらいで王道中の王道。プラケットは33mm、これも王道。
 
釦はすべて根巻されている。流石と言う所。
 
さて、スクエアカットの身頃やシャルベカラーなど、確かにアイコニックなディティールはいくつかあるが、シャルベのシャツが体現していることは「シンプルであること」だろう。いわゆるパリでいう「シック」に通ずるところがあるのかもしれない。「着飾るという強い意志を感じさせない」とでも言うのか。
 
パリ歴が長い方に、フランスでのボタンホールのハンドかがりの是非について伺ったのだが、フランスの美意識は”一見して手仕事とわかるような仕事をしない”ということらしい。確かにボナマッサは酷いもんだし、ジョバンニ・イングレーゼはこれ見よがし、サルバトーレ・ピッコロチリエッロもテキトー。モンテサーロフランチェスコ・メローラアヴィーノあたりが綺麗めではあるが、手仕事感は見る人が見ればわかる。ちなみに日本の上手と言われる手縫いのボタンホールを見たことがあるが、機械縫製と見分けが付かない上に同じ位に硬い。別の意味でこれは究極だと思ったが、フランスのボタンホールは少し違う。私も数多く見たことがあるわけでないので表現に困るが、パリのモデリストさん曰く”肩の力の抜けた、粋な綺麗さ”とのこと。
この”肩の力の抜けた”という所がポイントなのだと思う。
 
パリの重衣料メーカーで個人的に好きなブランドがある。Husbands(ハズバンズ)という。このブランドのデザイナーは弁護士出身のNicolas Gabard(ニコラ・ガバール)というが、彼のファッションは面白い。その細身ですらっとした身体にスーツはビシリと決まっているのだが、靴に目をやると「おや?」と思う。よく親交のある方に聞いてみるとどうも日本で言う「ギョウザ靴」に準ずるような安靴を履いているらしい。しかし全体を見るとシンプルにまとまってその靴も気にならない。この微妙な無頓着さ、ヌケ、これがフランス流の”肩の力の抜け方”なのではないか。
 
考えすぎずに肩の力を抜いて選べる良質なシャツ。
私は長年いろんなシャツを見てきたがドレスシャツに限って言えばやはりシャツは「下着」であるべきと思っている。下着のような心づもりで着る。特定の場合や趣向を持っている場合を除き、アンダーウェアは着心地が良く、上に着るものの邪魔をしないものを選ぶと思う。シャツもそのように選ぶべきであり、そのとき選ばれるシャツの頂点がシャルベなのだと思う。
 
シャルベには適度に何もない。薄味である。良質な生地が真面目に縫われている。何も邪魔せず、良質で丁寧な縫製があり、そこに歴史がある。
シャルベのシャツは、「自然になんでもないものとして選ばれる最高のもの」なのではないだろうか。
その選び方がフランスのスタイルになるのだろう。
 
 
その時、ネックが微妙に余って隙間が出来ているとか、袖が少し足りないとか、そういうことはどうでもいい。全部乾いた笑いで済ませればいい。だってフランスの最高のシャツを着ているのだから。

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2 Comments

  1. かわふくろう様
    その昔、人づてにはアルモーが多いと聞いたことがありました。
    このシャツはだいぶしっとりして光沢があります。リーバも扱いはあるのだろうと思うのですが、フランスのブランドですしスイスの生地がメインでもおかしくないですね。
    まあコンセプトが「貴族の趣味」なので、まさしくお金を気にしない人のためのものなんでしょう。

  2. かわふくろう

    シャルべのシャツの生地は何処のものか多いのでしょうかね?画像からもしっとりとした綺麗な生地だということが伝わってきますね。

    お金がいくらでもあったらシャルべのシャツをビスポークオーダーして、そればかり着たいです。いくらもないのでネクタイとチーフで我慢です。

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