数少ないフランス製のシャツ。ミッテラン元大統領が愛用したシャツである。

テュイリエは1930年からの老舗であるものの、何度かの休止を経て初めて海外に輸出されたのは2017年。

サルコジ元大統領やマクロン大統領も仕立てたシャツ屋らしい。ただそういう売り方だとシャルベと比べ物にならない。ミッテランは元々シャルベの顧客だし、テュイリエを着なかったシラクをはじめ、ドゴール、カトリーヌ・ドヌーブ、果てはコッポラ一家にイブサンローランなど、倍の歴史と現代シャツの始祖という名誉から成る権威を持つシャルベの顧客は錚々たるメンツである。

テュイリエは古くからビスポークシャツメーカーとして歴史があるが、既製品が世に出たのはつい最近。別注元はBEAMSのハイエンドセレクトショップ、International Gallery BEAMSだ。

2つ、気付いた事がある。

1つ目は本物のレギュラーカラーの難しさだ。道行くおじさんサラリーマンはなんてことないようにレギュラーカラーのシャツを着ているが、現状のメインストリームはセミワイドカラー。レギュラーカラーはいなたい。よく服装指南のサイトには「無難なレギュラーカラー」と紹介されているが、本当にそうだろうか。個人的には、オンビジネスのシーンでラペルから襟先が出るのは避けたい。タイニーカラーにナロータイ、ノータイで第一釦を空けている、テーラードジャケットを着ないスタイルなど、レギュラーカラーを使えるのは特殊な状況に限っている。

このテュイリエはミッテラン・カラーと言って襟の開きの角度が小さい。当時の雰囲気をそのまま持ってきた元祖レギュラーカラーといった感じ。なので、他のジャケットと合わないように感じるのだ。ナロータイでナローラペルとかなら良いのかもしれないが、個人的にはハードルが高い。

2つ目は、IGBeamsの生み出す不思議さ。整合性がないディティールの総和による違和感だ。

11mmの釦はいずれも輝きからして白蝶貝。全て根巻されている。

カフはアジャスタブルボタン。片方を取ってしまわないと少し野暮ったい仕様。

ちなみに襟の運針は1cmで8針。13針叩くこともあるFRAYよりは下位だが、鎌倉シャツのナポリラインと同じレベルなので上等。

ガゼットは大ぶりな三角形。これも野暮ったい。

が、裾折り返しは2mmと極細。

背中はほぼシャルベと同じで、カーブしたヨークにダーツやプリーツを配した身頃。写真二枚目は裏返ししたもの。特筆すべきは袖。アームホールの縫い代が4mmととても細い。脇線・袖線と同じだ。上述の野暮なディティールとは逆に、洗練された印象である。ちなみに普通のシャツのアームホールの縫い代は10mm。山神シャツの最も細い脇下部分でさえ5mmはある。相当細い。

ただ、scyltの渡辺氏も言っているように、縫い代を細くするというのは、機能的には肌にあたる面積を小さくし存在感を薄めるという目的に基づいたもの。硬い生地の場合は小さい面積に生地が詰まるので逆効果になることもある。

袖付けがセットインスリーブになっている。これ自体は良い事だと思う。私もビスポークでシャツを作る時は指定する。ただ、前振りの袖付けをしているフランスの既製品シャツは知っている限りで見たことがない。あのフランス産感を演出しているチュニジアメイドのブーリエンヌでさえ、セットインスリーブではなかったはずだ。

この妙な感じはなんなのか。

シャルベで述べたような、フランス流の”肩の力の抜け方”とはちょっと違う何かを感じる。端正に、という観点では縫製は綺麗だし線が細いのは確かにそうだ。だが袖付けの縫製線が異様に細すぎ、日本のディティール販売でよく語られる前振りの袖付けがあり、角度が狭すぎるクラシックなレギュラーカラー。しかもフィットが細い。

ああそうか、とここでわかった。テュイリエ初の既製品という事で、今までハウススタイルが無かった故に、ミッテラン・カラー以外の多くはBEAMSバイヤーのオーダーなのではないか。だから多くの異なるベクトルの要素が混ぜ合わされ、フランスのドレスシャツではありえないようなものが出来ている。

整合性がない、というと悪口に聞こえるかもしれないが、相反するイメージを持つディティールの共存によって、既存のフランスらしさに染まらない不思議な印象を醸し出している。

その細さと洗練された始末から、「モードっぽい」と一言でも表せるようなものだが、旧来の襟型が据え付けられておりその括りを拒む。

すとんとしたスラックスとかに合わせてシャツイチで袖を無造作にまくって着ていきたいと思ってるので、中野さんフェンダールを…フェンダールを早く…!!