イタリアの最高級生地の1つ、カルロ・リーバ。
今や、イタリアはコモ県のシルクで有名なフェルモ・フォサッティ社のシャツ生地部門。
そのカルロ・リーバのツイル生地であるスーパーリーバ。
コットン100%のツイルだ。
 
 
落合正勝は日本製のオーダーシャツを着用していた時期を経て、イタリアの既製シャツを渉猟し、最後にはカルロ・リーバを常用するFRAY(フライ)を好んでいた。彼は「パジャマのような最高の着心地」をFRAYに求め、そのリーバの生地を使ったシャツを最高のシャツの一つとしていた。
今は、個人的には「オーダーで作った方が良い」と思う。
 
リーバを使った鮮やかで派手な柄のFRAYのシャツが伊勢丹の最終セールで6万で売られていたのを見たが、南シャツのビスポークでスーパーリーバを使ってシャツを仕立てた方が6万円以下だし、個人的にはこちらの方が絶対に良いと考えている。マシンメイドではあるものの、自分に合ったサイズで、指定のディティールでとても良いクオリティを実現できる。
 
 
何回目のオーダーだか忘れた。南シャツの出来栄えはいつも通り文句がない
 
落合氏は「上質のレディメイドのピュアなナチュラル感を超えることができない」として既製シャツの生活に戻ったらしい。未だに私には理解できない。イタリアの既製品には色気と艶がある、ということか。では国産オーダーシャツのつくり手に欧米的な美しさへの理解と再現力がない、という事なのだろうか。「ピュアなナチュラル感」とは一体なんだろう。ビスポークでよく言われる「身体に沿うが故に身体のラインの醜さが露呈してしまう問題」だろうか。だとしたらそう言えばいいだけだし、落合氏ほどの人間が「服をオーダーするってのは粋じゃない」というシティボーイスタイルなわけでもない。
 
というわけで、単に当時、日本のカミチェリアのレベルが低かったか或いは落合氏が選んだのはパターンオーダーばかりで、且つイタリアのオーダーは高価だったり言語の問題で落合氏は選ぶに至らなかった、と私は勝手に考えている。生きた時代が違うから何とでも言えるぜハハハ。
 
 
さて、カルロリーバの特徴。それは「良い仕入れルートで仕入れたエジプシャンコットン」を「旧式シャトル織機で小ロット生産」し、それを「湿度70%で半年×2回寝かせ熟成させる」ことだ。
「生地を寝かせて熟成させる」というと、重生地ミルメーカー、カルロ・バルベラも洞窟で生地を熟成させることで有名だ。この辺の是非はデータが無いのでなんとも言えない。手縫い神話みたいなものである。
それよりも、カルロ・リーバの魅力はシャツ屋の言い方を借りれば「規格を吹き飛ばす品質」を持つこと。東京の下町職人街にある4畳半ほどのシャツ屋のガラスケースに古ぼけたスタンプ型の赤いプライスタグ50,000円を貼られて並べられていたリーバのスーパーリーバ。小上がりの上でその職人は言った。「何番手とか、どこどこのコットンだとか、糸の長さがどうこうっていう様々なものさしがあるかもしれないけど。カルロ・リーバは違うんです。どれも確実にモノが良くて、いちいち説明する必要がない。だからカルロ・リーバ。」
その時私は鎌倉シャツの300番手シャツを着て職人の語りを受け止めていたのだが、リーバの生地を触って驚いた。薄くはないが厚すぎる事もない。乾燥した季節なのに適度な湿り気を感じるすべりの良い生地。シルクに見紛う鈍く控えめな光沢。保温性が僅かにあるが肌離れがよく不快感が少ないことが推測できる。なんというか、ケチをつけられない、抗えない良さだった。
カルロ・リーバ イズ カルロ・リーバ。確実に良い生地である、その保証込みで躊躇いなく即決されるようなもの。それがカルロ・リーバというブランドなのだ。
 
…さて、私は相変わらず半信半疑である。
 
生地熟成の何が良いのか?そんな科学的根拠がなさそうなものを信用するのか?なんで旧式の織機=甘い織りだからって良いと言えるのか?用途や仕立てによるのでは?小ロットが良い?スケールメリットがある大手の方が廉価に生地を提供できるのでは?原綿の仕入れ値と小ロットって関係あるの?エジプシャンコットンの良い仕入れルートって言ったって、そこだけってわけじゃないでしょう?
 
面倒な確認はキリがない。そんなことより酒を飲んで寝ていたほうが有益だ。私もシャルトリューズ・トニックとかを飲んでシャツの襟羽根を眺めていた方がよっぽど良い生活を堪能できる。
 
だから上で書いている事はあまり意味がない。
 
それよりも、何よりも、リーバの魅力はブランドだろう。もっと言えば「オーナーが強烈でありブランドのスタンスが強い」ということだと思う。
カルロ・リーバは番手を公開しない。カルロ・リーバは嫌いな相手とは取引しない。カルロ・リーバはずば抜けて高い。殿様商売なのである。
カルロ・リーバは「良いから黙って俺を信じろ」という、迷える顧客を引っ張りあげる(まさに)ブランドなのである。
もはや昔とは織りが違う。もはや商売の方法も違う。でもなんとなく生地が良く、なんとなく「幻の」と冠がついている生地はありがたく感じ、更にべらぼうに高い。フェルモ・フォサッティのオーナーを兼務するオットーは気分屋で情熱的で気難しい。
既に海外の技術革新や、オルトリーナへ流出した旧式織機など、他メーカーの方でも良い品質のものが生まれたりしているのだが、それは良かっ「たり」するだけで、「確実に良い」というわけではない。
 
 
少なくとも今はカルロリーバの生地は「確実によい」と思う。
まだまだ着込んでいないので何とも言えないが。